イケイケな教育系ITベンチャーに転職も…まさかのトイレ掃除の毎日
現場に見切りをつけ、ITで現場を変えようと決心
そんな“非効率すぎる”現場を目の当たりにして、岩田さんは転職を決意。教育現場にITで変革を起こそうと、教育系スタートアップへの就職を目指します。
「実は、大学時代にIT系の会社でインターンをしていてそっちの方面にも多少知り合いがいたんです。それで教育系IT企業ではそこそこ有名なスタートアップに就職しました。
思い返せば、教育業界って、就活のときからとことんアナログなんです。履歴書も全て手書きじゃないとダメで、何かにつけて手書きの連続。そんなのもあって教員の仕事をITでバックアップする仕事に就こうと考えました」
教育系スタートアップへの再就職を果たした岩田さん。実際に学校で教師をしていたというバックボーンを活かそうと密かに野望を持ちながら再スタートを切りました。
「就職した会社はベンチャーだったんですけど、すでに大手のベンチャーキャピタルから数千万円規模の資金調達を果たしていたりと波に乗っている会社でした。入社前の話では僕は現場経験を生かしてサービスのブラッシュアップと現場へのマーケティングの主任をやらせてもらうことになっていました」
指示される仕事は誰でもできる雑用ばかり
入社前には、具体的な仕事内容を知らされていたという岩田さん。しかし、実際に待っていたのはまったく違う仕事でした。
「でも、実際に働き始めたら先輩……っていうかアルバイトの人から指示されて、顧客情報をまとめたエクセルのデータ成型だったり、営業用の媒体資料を印刷するだけのような単純な仕事ばかりで。
それはまだいいほうで、僕は1番の新人だったので社員なのに毎日フロアの掃除とトイレ掃除、買い出しなどをやらされていました。最初の数週間だけだろうと思っていたのですが、一向に変わる気配はなくて」
岩田さんは転職してすぐに、このベンチャー企業の真の姿に気づいたといいます。
「本当に社長の引きの強さだけで回っているような会社で、正社員はほとんどいなく、ほぼアルバイトかインターンで運営されていたんです。
しかも、社長はベンチャー特有の“熱量バカ”みたいな人で、すぐに『仕事が遅い』『そんなこともできないのか』『仕事舐めてるのか?』『もう今日は掃除して帰っていいよ(笑)』などヒドい言葉をぶつけてくるん人だったんです」
退職届を提出。社長にぶつけられた一言は…
「そんな状態がずっと続いて、最初に持っていた野望みたいなものはどんどん薄れて行きましたね。もちろん、環境のせいで気持ちが消えるくらい軽い思いだったのか? とも葛藤はしました。単純に、そんな自分が悔しかったんです。
でも、やりがいの感じられない雑務の連続でだんだん精神的にもすり減って来てるのが自分でもわかってきて、ここにいたら仕事云々の前に、自分がダメになるなって思いました」
結局、岩田さんは入社から3か月も経たずに会社を辞めることに。
「悔しい気持ちもあったんですけど、教育系スタートアップなのに教育現場を実際に経験した人は僕以外にいなく、社長もお金目当てで走っているところがあって。いや、ちゃんと事前に調べなかった僕にも非があるのはわかってるんですけど、あまりにも外向きでの会社の評判と内実が違いすぎて……」
岩田さんは退職を願い出たときの社長の反応が忘れられないといいます。
「社長に『もう辞めさせていただきます』って伝えたら、『そんなんじゃどこに行っても続かないよ? 俺が怖くなったからやめるの? ま、別に辞めるのはいいんだ』ってヘラヘラしながら言われたんです。絶対に見返してやる、という気持ちになりましたね」
現在、岩田さんは教科書会社に勤務しながら自分で教育系サービスを立ち上げる準備をしているそうです。
その身ひとつで会社を起こし、巨額の資金調達を果たすベンチャーは外見には華々しく映るかもしれません。しかし、その内部をよく見極める必要がありそうです。
<取材・文/尾身宗一郎 イラスト/zzz(ズズズ)@zzz_illust>