ISの性奴隷にされた女性が立ち上がった理由。『バハールの涙』監督に聞く
政治的な理由でヌードになったイラン人女優を起用
――悲惨な事件を、女性を励ますような物語として描くことは難しかったのでは?
ウッソン監督:この映画を撮ることは正直、かなりツラかったです。撮影期間、私はよく眠れず体中に原因不明の湿疹ができていました。バハールを演じたゴルシフテ・ファラハニも撮影後はエモーショナルになって、よく泣いていたんですよ!
レイプシーンだって実際のレイプは観客からは見えませんが、女性の叫び声を聞いただけで、撮影現場にいたプロデューサーが泣き出してしまったぐらい……。それでも、現場で感じるエネルギーが“痛み”よりも日に日に大きくなって、なんとか作品を撮り終えることができました。ただ、次の作品はもっと楽しい映画にしたいかな(笑)。
――ゴルシフテ・ファラハニの、眼差しだけで表現する演技は素晴らしかったですね!
ウッソン監督:ゴルシフテと会った瞬間に「まさに戦う女王だ」と思いました! 普通の母親も戦士も違和感なく演じられる女優です。彼女はイラン人ですが、クルド人監督の映画でクルド人を演じたこともあり、クルド語も話せるので、彼女ならクルドの人々も受け入れてくれると思いました。
ちなみに、ゴルシフテがもう10年近くもイランから追放されていることを知っていますか? 政治的主張のために雑誌や映画でヌードになったことが原因で、彼女はイランへ戻ると24時間以内に処刑されてしまうんですよ! 家族はまだイランにいるのに……。女性の自由を主張するために、とんでもない代償を払ったゴルシフテだからこそ、瞳に“悲しさや強さ”が宿っているんでしょうね。
抑圧される女性へのメッセージとは?
――奴隷にされた女性が出産するシーンに、普遍的な“女性の強さ”を感じました。
ウッソン監督:この映画は前線や難民キャンプの取材で得た複数の実話から作られたので、映画で見ることのほとんどは事実なのですが、この出産シーンはフィクションです。
実は、プロデューサーには「このシーンはトゥーマッチなのでは?」と反対されましたが、「女性は自分の選択で子供を生む」「女性はどんな過酷な状況においても、命を生み出すことができる」というメッセージを観客に伝えたかった。
とはいえ、「あのシーンが観客に受け入れられなかったらどうしよう」と内心ドキドキしていましたけどね(笑)。
――クルド人女性に限らず、社会に抑圧されていると感じる女性は多いと思います。そんな女性に伝えたいことは?
ウッソン監督:女性は“抑圧される性”に生まれついていると言っても過言ではないぐらい、現在も男女不平等の社会です。私は世界各地へと旅しましたが、程度の差こそあれ、どの国へ行っても女性が直面する暴力と抑圧を目撃しました。ですから、「女性は立ち上がり、今、この社会を揺さぶらなければいけない」と女性に伝えたい。
女性の地位は常に向上しているわけではありません。例えば、古代エジプト女性のほうが現代のエジプトの女性よりもずっと自由でした。また、それまでベールを被らなくてもよかったイランの女性も、イラン革命以降被らなくてはいけなくなりました。女性の地位が一進一退を繰り返しているからこそ、「男性による女性蔑視や不適切な言動は、どんなに小さなものであっても絶対に許してはいけない」――そう信じています。
<取材・文/此花さくや>