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1万人の中国人が米国境に陸路で殺到し摘発。若者たちはなぜ中国から離れたがるのか

日本が、観光の分野で人気だ。長らく、経済的な低迷を続け、少し自信を失っている日本人も多いと思うが、外国人が考える人気の移住先ランキングで、日本が上位に出てくるケースも少なくない。

ひるがえって、経済的に巨大化するお隣の国、中国の若者の中では今、国を出たいと思っている人が増えているらしい。

アメリカとメキシコの国境付近で、アメリカに入国しようとして摘発された中国人の数は前年同期比で17倍にも達しているという。なぜ、中国人たちは国を離れようとしているのか。

そこで今回は、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに、中国の若者が中国を離れようしている背景を教えてもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。

中国に見切りをつける中国人が増えている

21世紀に入り、中国は急速な経済成長を続けている。2011年(平成23年)あたりにはGDP(国内総生産)で日本を追い抜き、米中対立と言われるまでの大国に成長した。

米国の対中脅威論は高まるばかりだ。しかし近年、その勢いにも陰りが見え始めてきた。

ゼロコロナ政策や不動産バブルの崩壊、経済格差が若年層の高い失業率など、習政権は多くの課題に直面し、中国の経済成長率は5%前後と鈍化している。

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その影響か近年、中国に見切りをつけ、中国を離れる中国人が増えているという。

中国人が向かう国の中でも注目は米国だ。昨年1月から5月までの間に、メキシコとの国境付近で摘発された中国人は約1万人に達した。前年同期比の17倍に上ったという。

米国を目指す中国人は直行便で米国に向かうのではない。トルコから、南米のエクアドルまで渡り、そこから歩いてメキシコまで来て米国に入ろうとしている。

中国化した香港には住めないと移住を決めた人も

米国を目指す中国人の理由はまちまちだが、大きく分けると2つの背景が考えられる。

1つは自由だ。例えば、香港では、2020年(令和2年)6月に国家安全維持法が施行された。

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そうした変化を受けて、香港の自由や民主主義、人権といった価値観は大きく後退し、北京による統制が強化され、議会でも民主派は一掃されている。

日本人と同じ価値観を共有する香港人の中には、ネット上で習政権を批判したら警察に連行され、メッセージを削除するよう要求された人も少なくない。

中国化した香港にはもう住めないと、米国への移住を決めた人もいる。

もう1つは経済的不満だ。冒頭で述べたように、中国の経済成長率は大きく鈍化し、若年層の失業率が昨年は20%に上るなど、国民の経済的・社会的不満は強い。

コロナ禍では、徹底して感染拡大を抑えるゼロコロナ政策により、市民は外出できなくなった。企業も思うようにビジネスができなくなった。

市民は、自由に安心して生活できない・働けないと習政権への強い不満を抱くようになり、安定した生活を求めるため米国へ向かう人々も目立つようになった。

不満を抱える中国人が離れた方が習政権には都合がいい

一方、中国人が向かう先は米国だけではない。近年、自由や安定した雇用などを目指し、日本へ移り住む中国人も増えている。

そういった中国人の方々が住む地域はまちまちだが例えば、東京の下町・亀戸や錦糸町に足を運んでみてほしい。

多くの中国人が移り住み、中国人向けのレストランや露店などが立ち並ぶ様子を目にできるはずだ。

そのかいわいの公用語は日本語ではない。中国語だったりする。

数年前に筆者が亀戸を訪れた際、そういったお店に偶然、立ち寄る機会があった。

店内に入ると、黒くて大きなコイが食用で売られていた。日本人が買うような魚ではない。数年前の段階でも、大きな変化が見られたと鮮明に覚えている。

習政権にとって最優先事項は国内の安定である。不満を抱える中国人が中国を離れる状況はむしろ都合がいい。

国内に長居され反政府行動をとられるより、海外に散らばってくれる方が習政権にとっては安心だからだ。よって今後も、中国人の中国離れという流れは続くだろう。

[文・和田大樹]

[参考]
Where the World Wants to Work: the most popular countries for moving abroad – Remitly

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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