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バブル漫画『右ダン』作者に聞く、デビュー・創作・交遊録

コラム

 世の中の世相風俗を反映してきた漫画。そこに描かれたサラリーマン像は、我々に何を残してくれたのか。「働き方改革」が問われる今だからこそ、もう一度それを見つめなおして、20代の私たちも何かを学び取りたい。

右曲がりのダンディー

『右曲がりのダンディー(1)』

 今回、話を聞いたのは、バブル時代に一世を風靡した伝説のコメディ漫画『右曲がりのダンディー』(1984~1990)の作者、末松正博氏。日本が世界経済の中心に躍り出た当時、漫画界に突如として現れ、恋と消費を謳歌するパワーエリートの華やかなライフスタイルを描いて話題を呼んだ。

 バブル崩壊から約30年間、『右曲がりのダンディー』とは一体なんだったのか。メディアにあまり語られてこなかった当時の創作背景に、『サラリーマン漫画の戦後史』(宝島社新書)著書で、ライターの真実一郎氏が迫る。

編集者がつけた『右曲がりのダンディー』

――『右曲がりのダンディー』というタイトルは、主人公「一条まさと」の局部が右曲がりだから付けられたんですが、タイトルが下ネタって、編集部内から異論は出なかったんですか?

末松正博(以下、末松):いや、あれは編集者がつけたんですよ(笑)。もともとはアレが右に曲がっているという設定も編集のアイディアなんです。カッコいいナンパ師だけど、いざとなったらあそこが曲がっている、というのは面白いんじゃないか、と。それがエロくなり過ぎるとモーニングらしくないので、あくまでスパイスとしての「右曲がり」でした。

――高層マンションに暮らして毎朝ジョギングして、ダブルのスーツを着てポルシェで通勤して、毎晩ディスコや接待で夜遊びするという、バブル時代のパワーエリートのライフスタイル・イメージを先取りして描いてますよね。連載が始まった1984年は、まだバブル前夜でした。

末松:実は「5時から男」という流行語は『右ダン』から生まれたんですよ。のちにCMで使われて流行りました。あと、いい男といい女しか出ないコカ・コーラのコマーシャルも『右ダン』に触発されたと聞いたことがあります。

古いサラリーマン像を崩したかった

――「I feel Coke」キャンペーンですね。あれは1987年で、トレンディドラマの元祖と言われる『男女七人夏物語』も1986年だから、『右ダン』のほうが早いんですね。

末松:それまでのサラリーマンって、イメージ的にネズミ色というか、しょぼくれて冴えない存在だったので、それを一新したかったんです。だから、高級なスーツを着こなしてポルシェに乗ってモテまくる、というメチャクチャな設定にしたんですよね。そうしたら、主人公のライフスタイルに憧れる人が連載中に増えていったと聞いてます。とにかくサラリーマンの昔のイメージを崩したかったんですよね。

――それは、なぜだったんでしょう。

末松:自分のオヤジが昭和の頑固男で、遊びも一切しないで5時半ぴったりに帰ってきて、おふくろが玄関で三つ指ついて迎える、というのを子供の頃からずっと見てるので、そういう既成の古い価値観に対する反発があるんですよね。だから大学時代は学生運動とかもやってたんですけど。

――面白いですね。『右ダン』連載時にアメリカで一世を風靡したヤッピー(都市部の若いエリートサラリーマン)って、もともとヒッピーが就職してビジネス界で新しいスタイルを作ったという存在だから、学生運動を経由した末松先生が一条まさとを描いたというのは、ヒッピーからヤッピーという変化そのものですね。

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