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【スタートアップ入門】ビジネスのたねを見つけるには?

ビジネス, 学び

「世界における、宇宙ビジネスの市場規模は、2040年に1兆ドルに拡大」「生成AIの市場規模は2032年までに1兆3000億ドルへ」。近年急速に技術革新が進展し、様々な分野で市場が急拡大する中、注目を集めるのがスタートアップ企業だ。ということで今回から4回にわたり【スタートアップ入門】と題し、スタートアップのHow Toを『How To STARTUP』(久野孝稔・あさ出版)の中から紹介。その1回目はスタートアップビジネスの入り口となるアイデアの見つけ方だ。

スタートアップ

※画像はイメージです(以下同)

個人の感情を大切にする

いきなりですが、重要な質問をさせてください。

「あなたはビジネスとは何だと考えますか?」

単純に考えれば、それは「利益を上げること」です。利益を上げないで生き長らえようとするだけのビジネスでは社会に迷惑をかけてしまうので、そのような企業は存在自体が社会悪と言えます。

企業であるなら利益を上げることは大前提。しかし、単に利益を上げればよいかというと、金儲けビジネスを勧めているように聞こえてしまい、私には少し違和感があります。

私は、決して金儲けを批判しているわけではありません。

ただ、スタートアップを志す人たち、またはスタートアップで成功する人たちには、「金儲けをしたい」という思いよりも、「社会をよりよくしたい」「人のために自分を役立てたい」という強い想いが前提として存在しているように思います。

「ビジネス」という言葉を日本語辞書の大辞林(第4版)で調べてみると、「仕事や業務、営利活動のこと」といった一般的な意味の他に、「個人的な感情を交えない、金儲けの手段としての仕事」という意味が掲載されています。

スタートアップを始めようとするあなたは、ぜひ、そこに次の意味を加えてください。

スタートアップのビジネスとは、「個人的な感情を交え、社会に貢献し、金儲けも可能な仕事」であると。

私がこれからスタートアップを志すあなたに最もお伝えしたいことは、「社会をよりよくしたい」「人のために自分を役立てたい」といった想いを前提にした個人的な感情を見つけることの大切さなのかもしれません。なぜなら、この個人的な感情は自分の個性、強みであり、あなたのビジネスアイデアの実現可能性を最大化してくれるからです。

では、どのように個人的な感情を見つけるといいのでしょうか?

スタートアップは内省による人生の棚卸しから始まる

最近、内省(またはリフレクション)という言葉を耳にすることが多くなってきました。企業の研修などでもよく登場するこの内省は、実はスタートアップにとって、とても重要なものです。

内省では「自分自身の心の働きや状態をかえりみる」作業を行います。こう聞くと「反省」という言葉を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、内省はそれとは異なり、自分自身の心の働きや状態をかえりみた上で、自らが未来に向けて発展できるプロセスを考えます。

私は起業コンサルタントとしても活動し、多くの起業志望者とお話をすることがありますが、まずは自分自身のことをよく知ることがビジネスアイデアを考える上で最初にすべきことだと考えています。

自分のこともよく知らない起業家の話に迫力はありません。また、そのような起業家は、お金を出資しようとする投資家から、「なぜそのビジネスはあなたじゃないとダメなのですか」という当たり前の質問にすら答えることができないでしょう。

内省を利用すれば、これまで生きてきた人生の行動を振り返り、経験を整理し、自分という人間をより客観的に知ることができます。なお、内省のツールとしては、厚生労働省からも無料のフレーム(ジョブカード)が提供されているので活用してみるといいでしょう。

ジョブカード活用のメリットは次にあげるようなことです。

【ショブカード活用のメリット】
● 自分の大事にしたい価値観に気づく

あなたが大事にしてきた(大事にしている)価値観、まだ自分でも気づいていない(明確に意識していない)価値観について気づくチャンスが作れる。
● 自分の強みに気づく
あなたがこれまで積んできたキャリアはすでに立派な「財産」でありそれが「強み」であることに気づける。
● キャリア・プランがはっきりする
これからどのようにキャリアを重ねていくのかが見えてくる。

ジョブカードの作成方法についてはYouTubeもありますので参考にしてもらえるといいのですが、なかでも重要なのが「自分の人生の棚卸し」です。

これは、履歴書や職務経歴書、プロフィールなどを作る際にも大いに役に立ちますし、何よりもビジネスのアイデアを作るための事前準備となり、スタートアップの手順としては「基本の基」にあたります。具体的には次の内容を考えていきます。

【人生の棚卸しの具体的項目】 
<あなたの持っているもの>

・ 生い立ち、子どもの頃の思い出、夢中になったこと
・現在の仕事、ボランティア活動
・今までの人生の重要なエピソード、経験
・身につけた知識
・趣味、特技(スキル)、継続している習慣
・取得している資格
・理想の未来

<人間関係>
・家族、親戚関係
・職場関係(社内、社外)
・先輩、後輩
・趣味等の仲間
・地域の仲間
・その他

棚卸しでは、特にこうしなければならないと定まったやり方はありません。ただ、一定時間集中できる環境に身を置き、記憶をたどって自分が生まれた頃からのエピソードを書き出していくといいでしょう。これまでの人生の軌跡を正直に見つめ、それらがもたらした意味を振り返ってみるのです。

カフェ

ご自宅やカフェなどで好きな飲み物を用意して、じっくり楽しく内省してみるのもいいかもしれません。最近では内省を促すアプリなども登場してきています。

内省に取り組む期間としては3日から長くても1週間くらいあれば十分です。

人生の棚卸しをしてみると、一番知っているようで、実は知らない自分が見えてきたり、アンコンシャスバイアス(無意識の偏ったものの見方)が見つかったり、私はこうありたいと願う自分の理想が見えてきたりと、意外な発見があります。

人生の目標が明確になれば、その夢とも言える目標に向かって今何をすべきなのか考えられるようにもなります。課題がはっきりすると、行動につながります。人生の棚卸しは「なりたい自分になるためのプロセス」だと考えましょう。これが、やりたいビジネスアイデアの「たね」を見つけることにつながります。

また、棚卸しをした内容を、他人に聞いてもらい、フィードバックを得るということも内省としては大変有効な手段です。他者目線という得難いコメントが得られます。周囲に自分をよく理解するための同志となってくれる人をぜひ見つけてみてください。

How To STARTUP: イノベーションを起こすビジネスアイデアの育て方(あさ出版)

<TEXT/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科(SFC)特任助教 久野 孝稔>

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慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科(SFC)特任助教/株式会社NERV代表取締役
1976年茨城県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、茨城県庁に入庁し筑波研究学園都市のスタートアップ産業政策を担当。 31歳でCYBERDYNE株式会社に転職し、初代営業部長、初代広報戦略部長など要職を歴任。さらにロボットスーツ®️の運営で社内起業し、湘南ロボケアセンター株式会社設立後、代表取締役に就任。武田薬品工業株式会社に転職後は日本最大級の創薬エコシステムを立ち上げ、スイスのノバルティスファーマの医療政策部長などを経て現在に至る。マサチューセッツ工科大学VMSコース修了者(日本初)。

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