鴎来堂・柳下恭平「おっさんの成功体験ほど信じてはいけない」
若い頃から言葉に興味があり、世界中を放浪。帰国後、28歳で書籍専門の校正・校閲会社「鴎来堂(おうらいどう)」を立ち上げた、柳下恭平さん。
近年では、神楽坂の書店「かもめブックス」の店主、書店の企画・運営など校閲会社の枠にとらわれない活動もしています。そのバイタリティはどこからくるのでしょうか? 仕事を楽しむコツなど、いろいろお話を聞きました。
おっさんの成功体験ほど信じてはいけない
――2014年に「かもめブックス」をオープンして、3年半が過ぎました。振り返ってみていかがですか?
柳下恭平(以下、柳下):僕は仕事でも私生活でも「虚」と「実」というものが、繰り返し積み上がっていくように考えていて、さきほどのトークイベントで、僕が海外放浪していた頃の話をしましたが、それは「虚」と「実」でいえば、虚の時期だったんです。何も生み出さないのが「虚」ですね。ただ、その「虚」を密度高く積み上げると「実」が生まれる。20代で海外放浪しながら言葉について考えた結果、生まれたのが鴎来堂だったんです。
――つまり、鴎来堂はある意味、何も生産しない時期があったから生まれたと。
柳下:そうです。そういう、「実」が生まれる。それで、社長になって、ほかの社長さんたちと飲みに行くようになると、いろんな東京のお店の空間を見ることになる。それ自体はただの遊びで、「虚」と言えますが、それが空間デザインについて考えるきっかけになった。結果、「実」としての「かもめブックス」について考えるときに役立ったんです。
――スゴい! また繋がりましたね。
柳下:で、話を先ほどの質問に戻すと、かもめブックスという「実」を3年半積み上げた結果、こうしてメディアから取材を受たり、校閲や編集のお仕事以外の露出が増えたりしています。なので、この3年は、また新たな「虚」を積み上げている感覚ですね。きっと、それが次の「実」につながるのだと思います。
――柳下さんはご自身の仕事をとても楽しんでいるように見えますが、どうしたらその境地に至れるのでしょうか?
柳下:仕事には「プレイヤーとしての楽しさ」と「マネジメントの楽しさ」があると思います。僕は自由な状態が好きですが、そこには、
・選択肢が多いこと
・持たなさすぎてなく、持ちすぎてない状態であること
の2つの要素があると思うんです。
しがらみに捕らわれているのは、もちろん自由な状態ではありませんが、なんの責任がないのもやはり自由でない。その中間で、なるべく多くの選択肢を持つのが、マネージャーの楽しさだと思います。