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北朝鮮・強制収容所の地獄を描く“在日コリアン”監督が、今の若者に伝えたいこと

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 かのレオナルド・ディカプリオも激賞したというドキュメンタリー映画『happy – しあわせを探すあなたへ』でプロデューサーを務めた清水ハン栄治氏(50)の初監督作品『トゥルーノース』が、6月4日に全国公開となりました。

トゥルーノース

『トゥルーノース』より(C)2020 sumimasen

 本作は、北朝鮮の政治犯強制収容所で、過酷な毎日を生き抜く日系家族とその仲間たちの姿を3Dアニメーションとして完成させた衝撃作で、収容体験がある脱北者や元看守などにインタビューを行い、10年もの歳月をかけて作り上げた渾身の一作です。

 清水監督は1970年、横浜生まれの在日コリアン4世。帰還事業で北朝鮮に渡航後に消息を経った在日同胞の話を幼い頃から聞いて育ってきたこともあり、本作で初監督に挑戦。50代を迎え、それでも新たなことへの挑戦を続けています。まったくの異業種から世界の映画祭が称賛するまでの作品をどのようにして生んだのか。清水監督に話を聞きました。

脱サラして映画の世界へ

――映画に携わる前は、サラリーマンだった時代もあるそうですね?

清水ハン栄治(以下、清水):そうですね。勤め人でした。海外と日本を往来したり、忙しい日々ではありました。ただ、自分の中で本当にやりたいことをしていたのか問うてみると、実はあまり燃えていなかったことに気づいたんです。それが35歳くらいのとき。なので「いいや、辞めちゃえ」で辞めてしまいました。それで前作の企画にプロデューサーとして参加しました。渡米してしあわせのルーツを探るドキュメンタリーに参加したんです。

――いきなり転身できるものなのでしょうか?

清水:僕と仲が良いアメリカ人のロコ・ベリッチという男がいて、彼はけっこう有名なドキュメンタリー作家で、アカデミー賞にノミネートもされているんです(『ジンギス・ブルース』)。彼にタイミングよく新しい企画があるから「ぜひに」と誘われました。

 僕自身も、しあわせを感じていなかったですし、会社を辞めようと思った矢先に電話がきて「どんなテーマ?」と聞くと、「しあわせについて探るドキュメンタリー」だと。『happy – しあわせを探すあなたへ』は、渡りに船みたいなものでした。

――しあわせについて探るテーマのことだけでなく、仕事の内容にも惹かれたのですか?

清水:そうですね。ベースにはコンテンツの仕事をしたい、クリエイティブな仕事をしたいという想いがまずあり、そこにピュアにしあわせになりたい想いが重なっていた感じです。当時は友人の家に居候していましたが、本当に楽しかったですね。しあわせな毎日でした。

「世界中の人が共感できること」を大事にした

shimizu

清水ハン栄治監督

――前作の反響は?

清水:いまだに映画を観たという視聴者からメールが来て、「自殺を思い留まった」などと感謝されることがあります。お金はサラリーマン時代のほうが稼いでいましたが、正しいことをしていると、肩をポンポンと叩かれる感じがしてうれしくなります。

 それで人生の後半はこれで生きたいと思うようになり、次のプロジェクトは何をしようかと考えていたところで、今回の北朝鮮のプロジェクトに遭遇するわけです。

――在日コリアンであることや、帰還事業で北朝鮮に渡航後に消息を経った在日同胞の話を幼い頃から聞いて育ってきたことが、メガホンを握った理由でしょうか?

清水:後付けになるのかもしれないのですが、自分の出生などの部分もくっつけて考えると「この映画製作は天命なのかな」と思うようにはなりました。でも一番には、北朝鮮で起こっている人権蹂躙(じゅうりん)を純粋に世界に伝えたい、それが理由ですね。

――架空の家族を主人公に、独裁体制批判よりも人権問題に焦点を当てていますよね?

清水:僕はジャーナリストではなく、ストーリーテラーです。なので世界中でどのような環境で暮らしている人にも共感できるエピソードを紡ぎ合わせて、そこを大事に映画化した感じですね。どの親も子供の健康や、成功を願っています。それは国籍や国境はない悲劇であり、そこに焦点を当てました。

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