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がん患者4000人を診断してわかった「現代人の生きづらさ」の正体

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ありのままの自分で生きる

 成長するにつれて、子供が生活する社会の範囲は広がっていきます。小学校に入学する頃から、両親と関わる割合は少なくなっていき、思春期になれば親からあれこれ言われることを嫌がるようになります。

 しかし、親の影響から離れたからといって、それで心が自由になれるわけではありません。特に日本社会は「忖度する」こと、「空気を読む」ことを求める風潮が強いので、「want」の動機づけに基づいて行動していいという価値観に触れる機会は少ないかもしれません。

 しかし、時に救われる体験をすることももちろんあります。私がお会いした児玉さんという方は、親からずっと否定して育てられたのですが、高校の時の学校の先生が認めてくれたことがきっかけで、自分に自信が持てるようになり、さまざまなことに積極的に取り組むようになったそうです

 ただ、先ほどのコンピューターのOSの例えに沿って言うと、社会への見方はだんだんアップデートして改良はされますが、最初に親との間に形作られた原型の影響は残り続ける傾向があります。児玉さんも、新しいことに取り組むのですが、ちょっとした失敗のたびに、「やっぱり私はダメなのかしら」という自信のなさが顔を出すそうです。

「want」の自分になって人生を謳歌

清水研

清水研医師

 私はいわゆる団塊ジュニアの世代に生まれました。私たちの世代では、当たり前のように、親から「良い大学に行って、良い会社に入らないと、お前の人生大変だぞ」「働かざる者食うべからず。社会の役に立たない人間はダメだ」などと言われて育ってきた人が多いように思います。

 当時は友人たちも親から似たようなことを言われていたので、特に違和感なく受け入れていましたし、両親も教師も私たちのためを思って言っていたのだと思います。しかし、その「社会で活躍していなければダメだ」という「must」の価値観が自分たちを縛ります。そして、自分が会社で評価されなかったりしたときに、「自分はダメな人間だ」と、自分で自分を苦しめることになります。

 社会で活躍していなければみっともないというような「must」の自分から解き放たれ、「want」の自分が自由になっていなければ、心からは人生を謳歌することはできません。

<TEXT/清水研>

1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院での内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院での一般精神科研修を経て、2003年、国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん患者およびその家族の診療を担当している。2006年、国立がんセンター(現:国立がん研究センター)中央病院精神腫瘍科勤務となる。現在、同病院精神腫瘍科長。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医

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