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ネグレクトや貧困を乗り越えたベストセラー作家の秘話「自分の物語は自分が決める」

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 全米で500万部以上も売り上げたベストセラー『ガラスの城の約束』(ハヤカワNF文庫)。アルコール依存症で生活費を入れぬ天才肌の父と、芸術を育児よりも優先する画家の母のもと、4人きょうだいで育った作家ジャネット・ウォールズの自叙伝だ。

ガラスの城

© 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 愛情深くはあるが生活力と責任感のない両親は、子供たちを学校へも行かせず、ときにはゴミを漁って命を繋げなければいけないほど、子供たちは放置されていた。それでも、ジャネットは家を出て奨学金で大学へ進学し、NYのゴシップコラムニストとして成功する……。そんな驚きの自伝が同名タイトルで映画化され、6月14日に公開される。

 ブリー・ラーソン、ウディ・ハレルソン、ナオミ・ワッツと今を時めく豪華キャストでおくるこの映画は、主人公ジャネットが忘れたい過去を受け入れて、自分らしさを発見する感動作だ。一見悲惨にも思えるような過去にも、宝物のような美しさがある――。今回は、映画の原作者ジャネット・ウォールズさんに電話インタビューを行い、映画の製作秘話から家族、そして、トランプ大統領のことまで語ってもらった。

家族というのは美しくもあり、醜くくもある

――ジャネットさんのご両親の写真を見ましたが、父親役のウッディ・ハレルソンと母親役のナオミ・ワッツによく似ていたことに驚きました。

ジャネット・ウォールズ(以下、ジャネット):そうなんです! 彼らは私の両親の特徴を本当によく捉えていました。私の母もびっくりするくらい(笑)。

 ウディは、「君のお父さんは話すときにどこに手を置くんだい? 目線はどこ?」なんて、とても具体的な質問をするんです。撮影現場で2人が演じるところを見たのですが、あれは演技というよりは、変身。顔の構造さえ変わったんですよ! ウディが初めてメイクを終えて父になった姿を見たとき、思わず震えて涙が出てしまったくらい! ナオミとウディは両親本人たちよりも、もっと彼らを理解していましたね(笑)。

――原作を読み、映画も観たのですが、ジャネットさんと似た過去のない私でも、非常に感動しました。なぜ、この物語は人々の心を打つのでしょうか?

ジャネット:多くの人が「自分の家族を思い出した」と話してくれました。私の家族ほど強烈じゃなくても、この物語のなかには普遍的な家族の姿があると思うんですよね。両親がどんな仕事をして、どれぐらいお金をもっているか、なんて関係ない。家族というのはとても複雑な関係で出来ていて、そこには美しい過去もあれば、醜い過去もある。私たちにはみんな、そういった善悪を超越した家族関係があるんじゃないでしょうか?

善人だって悪いことをする、悪人だって…

ガラスの城

© 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

――撮影現場で見るのが辛かったシーンはありましたか?

ジャネット:ブリー・ラーソンが演じた私(ジャネット)が家を去るときに父と話すシーン。去ろうとするジャネットに思わず腹が立ちましたね! 「なんで家を出ちゃうのよ! お父さんが可哀想じゃない!」って、思わず泣き出してしまったんです。そしたら、ウディが側に来て、父の声を真似て「君は正しいことをしたんだよ。君は家を出なけりゃいけなかったんだ」って優しく言ったんです。まさか、あのときのことを40年後にもう一度味わうなんてね(笑)。あの記憶は今でも私の心から離れないんですよ。

――お父さんが、プールで黒人差別に立ち向かうシーンがありますよね。お父さんは人種差別が残る南部出身で彼の母は黒人を差別していた上に、ひどい母親でした。なのになぜ、お父さんはあれほど聡明でリベラルな考えの持ち主だったのでしょう?

ジャネット:父は正義や公平性、人間の尊厳、善悪については信念をもっていましたね。とはいえ、自分の子供たちの世話はしなかったけれど(笑)。でもね、ウディがとてもよいことを言ったんです。「善人だって悪いことをするし、悪人だって善いことをする」と。この映画がリアルなのは、そんな人間の複雑な部分を映し出しているからだと思います。

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