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オリンパス事件を追いかけた映画監督が問う「日本メディアの忖度」

ビジネス

――事件になる前の関係はいたって良好だったのですね。

山本:はい。ただ、当時の状況をつづったウッドフォード氏の著作を読んでいると、菊川氏は彼に対して、あくまで外人という感覚で接していたように感じました。

 僕は高校時代から17年間をアメリカで過ごしていたのですが、そうしたコミュニケーションのズレについて、思い当たる節がいくつもありました。日本と海外では、言葉によるコミュニケーションの壁だけでなく、様々な面で文化的価値観に違いがあります。

 日本語が話せないというハンディキャップがあったウッドフォード氏は、クライアントやメインバンクに挨拶に行っても相手にされず、まるで会長の菊川氏の家来のような扱いだった様子が彼自身の著書にも綴られていたます。でも、ウッドフォード氏は当然そんな空気を読むはずがありません。やっぱり文化的な考え方の違いがあったのだと思うんです。

 それが積み重なって、オリンパス事件という不思議なカタチでこじれたというのは、僕にはすごく分かりやすい構図に見えました。だからこそ、自分の経験を活かした視点で映画を撮ることができると思ったんです。

海外の人から指摘された「日本ってこんなんでいいの?」

山本兵衛監督2

――映画ではマイケル・ウッドフォード氏へのインタビューから始まりますが、実際にお会いした印象はいかがでしたか。

山本:奥山プロデューサーと企画について話し始めた時点で山口記者と通訳の方にはすでに連絡を取っていましたが、偶然そのときにウッドフォード氏が来日すると聞き、さっそくインタビューを行いました。

 ちょうど同氏の電撃解任から1年経った、2012年秋のことです。豪腕で知られるウッドフォード氏ですが、実際に話してみると非常にフレンドリーで、事件について熱心に語ってくれました。一つひとつの言葉に説得力があって、人を惹きつける魅力がある。彼が階級の差を飛び越えて成功を掴んだ秘訣を垣間見たような気がしました。

――その後、2015年2月に映画が完成されて、翌月にはBBCで放映されたそうですね。それが3年を経た今年になって日本公開が決まった理由は?

山本:一度は我々制作会社で自主配給を試みましたが、諸々の問題があり実現せず、配給先が決まらない状況が続いていました。ありがたいことに手を挙げてくださった配給会社さんのおかげで、こうして日本でも公開を迎えることができました。

 内容も字幕やグラフィック的な要素を日本語に変えている以外は、海外で放映したものと同じですが、放送局によってはTV用に45分バージョンも制作されています。

――ひと足先に映画をご覧になった海外の方々からは、どんなコメントが寄せられましたか。

山本:先ほどお話したような価値観の違いを面白がってくれた方もいましたが、権力は何らかのカタチで人間の倫理観や道徳を腐らせていくのかという、もっと普遍的なところに関心を示した方が多かったように感じました。

 映画ではウッドフォード氏の告発で、オリンパス幹部たちの記者会見の映像も収録していますが、日本有数の上場企業のトップにいる幹部たちが、あんなに無様なやり取りをするのか、これが真実なら、ほかの上場企業はどうだろうか、政界は大丈夫だろうか、と疑わざるを得ないほど、ずさんな対応が映し出されています。この記者会見さえ乗り切れば、何とか誤魔化せる。そんな心が透けて見えるようでした。

 特に印象の残っているのは、デンマーク人の知り合いが言った「日本ってこんなんでいいの?」という感想です。実際に事件から6年経った現在、日本は何も変わっていません。政治も、メディアも、スポーツも、芸能も、至るところで同じようなことを繰り返している。

 映画の中でFACTAの阿部重夫編集長は「既得権者たちが自分たちの権利を守るために、知らないうちに自分の乗っている船を沈めている」と語っています」。

 一方で、正しいことをしようと立ち上がった人たちは、結局何も成果を生めずに忘れることしかできない。これが今の日本の縮図だと感じています。世界の人たちが映画を観て感じた、資本主義の成れの果てというイメージと確実にリンクしていると思う。