ロックダウン中の暇つぶしが本気のビジネスに。ネス湖畔の極小クラフトジン蒸留所
ロックダウン中の暇つぶしから本気のビジネスへ
グレート・グレン・ディスティラリーを立ち上げたのは、ホスピタリティ業界での仕事を通して固い友情を築き上げたダニエル・キャンベル氏(37歳)と元シェフのアダム・ドワイヤー氏(40歳)。
ことのはじまりは、ネス湖を見下ろす小さな村落に居を移したキャンベル氏が、コロナ禍のロックダウンで在宅勤務が多くなった2020年の初夏、暇つぶしに容量2リットルのポットスチルを購入したこと。この一帯はかつてウイスキーの違法蒸留が盛んで、キャンベル氏の隣家は19世紀初頭には悪名高き違法蒸留家の「隠れ蒸留所」であった。
違法蒸留時代のロマンに思いを馳せながら、キャンベル氏は自宅の浴室にポットスチルを据え置き、あれこれと実験を始めた。同居しているガールフレンドから大ヒンシュクを買いながらも、その趣味は瞬く間に情熱へと発展。最初はキャンベル氏とドワイヤー氏の間のジョークだったのだが、ネス湖のほとりという立地が持つ強みに市場での可能性を見出し、2人は蒸留酒づくりをビジネスとすることを本気で考えるようになったという。
やると決めたらすぐ行動
やると決めたらすぐに行動に移す性格の両氏は、コロナ禍で社会がスローダウンしていたにもかかわらず、着々と蒸留所設立の準備を進めた。蒸留所の場所として彼らが選んだのは、以前キャンベル氏の亡き母君がネッシーグッズを扱うお土産屋を経営していた、ドラムナドロキット村の入り口にある小さな空き店舗。
この物件は、「ネッシー博物館」とも呼ばれるロックネスセンター&エグジビション(Loch Ness Centre & Exhibition)にへばりつくように隣接している。
「ロックネスセンターは、世界各地から数多くの観光客が訪れる人気観光アトラクションだから、僕たちのジンをできるだけ多くの人たちに知ってもらうのにうってつけの場所。ダニエルのおふくろさんがお土産屋を閉めてから、この物件はずっと空いたままだったから、絶好のチャンスだったんだ」と振り返るドワイヤー氏。
試行錯誤を重ねて独自レシピを開発
独自のレシピ開発には、ドワイヤー氏のシェフとしての知識と感性が大いに役立った。両氏はさまざまな地元の素材や意外性のある原材料を試し、80を超えるレシピで試行錯誤を重ねた。
「僕にとってはどれもすごくいいものだったけど、アダムはミシュラン星付きレストランの経験を持つシェフのこだわりで完璧なバランスを追求したんだ」と、キャンベル氏は話す。
結果、ジンに欠かせないジュニパーベリーにヘザー(ピンクや薄紫の可愛らしい無数の花を咲かせるエリカ属の植物)やレッドソレル(和名ヒメスイバ)といった地元産のボタニカルと、ロイヤルグレードのフランキンセンス(乳香)の樹脂などのエキゾチックな原材料を組み合わせ、自信を持ってうなずける香りと味わいを達成した。