『こち亀』両津勘吉のビジネスセンスは現実でも通用するか
デジタルガジェットに対する鋭い洞察
また、『こち亀』といえばパソコン、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラなど時代を先取りしたさまざまなハイテク機器が紹介されている。スマートフォンや、ルンバのようなお掃除ロボットもあり、ネットでは「こち亀は予言の書」という声もあがるほどだ。
「携帯電話、パソコン、インターネットは何度も大幅フィーチャーされていますが、個人的に白眉だと思うのは、“アナログ”と“デジタル”の違いを小学生にもわかるように説明した97年5・6号『プリクラ大作戦!の巻』(103巻)と、97年36号『デジカメ大作戦!の巻』(106巻)です。今でこそ常識になっている『デジタルは1か0』『コピーしても理論上は非劣化』『画素数と画質の関係』といった概念が、たった数ページで見事に解説されていました」
しかし、現代社会において「こち亀的なるもの」は、すでにネットに代替されてしまっている、と稲田氏。その筆頭が「Wikipedia」と「YouTuber」だという。
「『こち亀』の特に連載後半は、最先端ガジェットを両さんがいち早く使用し、仕組みを解説することに多くの紙数が割かれていました。また、さまざまな職業の実態、産業の構造、サブカルチャーやポップカルチャーを含む文化やその歴史、ありとあらゆる雑学・ウンチクを濃密に詰め込むことで読者の知識欲を満たす“情報漫画”でもあったと言えるでしょう。
この情報漫画としての役割が濃い回ほど、漫画としての構成面は軽視されていたように感じます。そんな中、誰でも無料で、かつ素早く知識とウンチクを得られるWikipediaは、『こち亀』の情報漫画としての役割を少しずつ奪っていきました。“『こち亀』を読むことで得られる知的快感”が、相対的にどんどん減退していったのです」
YouTuberにお株を奪われた?
とりわけ小中学生でもインターネットに触れられるようになった2010年代以降は、特に減退の具合が顕著だったという。「ある知識・あるウンチクを『こち亀』で初めて知る局面が減った」(稲田氏)という。
さらに、もうひとつ『こち亀』のお株を奪ったのが「YouTuber」だ。
「『こち亀』は、デジタルガジェットを面白がっているスタンスそのものが見せ芸でした。初物好きの両津が、まだ市場で十分に有用性の検証がされていない新製品に目をつけ、人柱として身銭を切り、いち早く試して人々に伝道する。これは2010年代で言うところの、YouTuber的な突撃精神に近いものでしょう」