自撮りの原点!?「カメラ付き携帯電話」は日本生まれ【実は日本が世界初】

私たちが日常生活で当たり前のように使っている多くの技術や製品。それらの中には、実は日本で最初に開発され、世界中で普及したものが少なくありません。そんな意外と知られていない「日本が世界初」な技術や製品を紐解き、それが生まれた背景や世界に与えたインパクトなどをクローズアップします。今回は、自撮りやSNS用の写真撮影に大活躍の携帯電話端末のカメラについて紹介します。
「三種の神器」の2つを合体
皆さんの持っている〈iPhone〉などの携帯電話端末にはカメラ機能が必ずついていると思います。しかし、このカメラ、20年くらい前までは当たり前ではありませんでした。
もちろん、携帯電話端末は今と変わらずありました。しかし、それらの端末は「電話」であって、カメラは別の道具として存在していました。
実際、当時の女子高校生の持ち物をチェックしたテレビ番組によると、携帯電話、音楽プレーヤー、使い捨てカメラ(〈写ルンです〉など)が「三種の神器」といわれていた時代があったそうです。
電話とカメラは別物。この固定観念が当たり前の時代に、携帯電話端末にどうしてカメラがついたのでしょう。
その当時の経緯を知るための資料としては『新プロジェクトX 挑戦者たち 1』(NHK出版新書)が詳しいです。
当時、NTTドコモなど他社の携帯電話端末キャリアに大きく後れを取っていたJ-Phoneという会社が存在しました。現在のソフトバンクです。
同社の社員が、起死回生のヒットを狙ってアイデアを模索していたとき、ロープウエイに乗った一般の観光客の行動を見て、アイデアをひらめきました。
その社員が見た光景とは、ロープウエイから見える美しい風景を、メール(テキスト)で熱心に伝えている観光客の姿です。
自分の感動を誰かにシェアしたいと、風景の美しさをメールで描写している人の姿を見て、写真を撮って送るコミュニケーションツールが携帯電話端末に必要だと思いついたのですね。
携帯電話端末にカメラ機能を搭載するハードルの高さ
ちょうど、似たようなタイミングで、シャープのエンジニアが、新型機種のモックアップ(模型)をJ-Phoneへ持ち込んできます。その模型にはカメラが搭載されていました。
そのタイミングが重なり、カメラ機能搭載の機種づくりが本格的にスタートするのですが、カメラ機能搭載の携帯電話端末づくりには多くの課題がありました。
まず、携帯電話端末にカメラ機能を搭載すると、端末そのもののサイズが大きくなってしまいます。時代は、端末の小型化に向かっていたので、カメラ機能を搭載しながら小型化を実現しなければいけませんでした。
通信回線の整備も求められました。大きなデータである写真を自由に送受信できるネットワークを構築しておかないと、大規模な通信障害のリスクが高まり、会社の経営に大きなダメージをもたらす恐れがあったのです。
その上、先行商品に対する市場の反応の薄さも懸念材料でした。あくまでも、テレビ会議向けの自撮り用カメラではありますが、携帯電話端末にカメラを搭載した機種は、京セラの〈VP-210 Visual Phone〉がすでに存在していました。1999年(平成11年)リリースの製品です。

類似の製品として、携帯電話端末に外付けする、カメラとディスプレイ搭載のメール端末も東芝や三菱電機製で発売されていました。
しかし、これらの端末は、それほど市場に受け入れられていませんでした。今さら携帯電話端末にカメラを付けたところで、爆発的なヒットにはならないというネガティブな判断もJ-Phoneの内部にはあったそうです。
ケイタイ初!カメラがついた
以上のような数々のハードルを乗り越え、2000年(平成12年)に、J-Phoneをキャリアとするシャープ製のJ-SH04(通称ゼロヨン)がリリースされます。

当時のカタログには、
“ケイタイ初!カメラがついた。”(J-Phoneのカタログより引用)
と書かれています。
携帯電話端末にカメラ機能が付いた事例は先ほどの京セラ製のVP-210 Visual Phoneが存在します。こちらが、携帯電話端末にカメラが付いた世界初の事例ですが、京セラ製の端末はPHS(簡易型携帯電話)だったため「ケイタイ初」という文言が書けたのかもしれません。
また、カメラの目的も違っていて、あくまでもテレビ会議用です。携帯電話の内側(プッシュボタンや液晶画面のある側)にしかカメラがありませんでした(自分を映すため)。
シャープ製のJ-SH04のカメラは反対に、端末の外側に付いていて、何かを撮影する目的を持っていました。
この「ケイタイ初!カメラがついた」シャープ製の端末は爆発的なヒットを遂げます。その当時、広告塔を務めた藤原紀香さんも、その認知の拡大に一役を買いました。
大手広告代理店のコピーライターたちが、携帯電話で撮った写真をメールに添付して送るサービスを「写メール」と命名すると、その言葉自体も流行語になりました。
カメラ機能付き携帯電話端末が他のキャリア(J-Phone以外)から続々と投入されても、撮った写真をメールに添付して送る行為を「写メ」と人々は呼ぶようになりました。撮影行為そのものが一般化し「写メる」という動詞まで誕生したほどです。
結果、携帯電話キャリアとして業界最下位だったJ-Phoneは、シャープ製のJ-SH04のヒットで業界2位に躍り出ました。
それから7年後、携帯電話、使い捨てカメラのみならず、音楽プレーヤーも取り込み(「3種の神器」全て)、人々の暮らしや価値観そのものを変えるiPhoneが登場しますが、携帯電話端末とカメラ機能を合体させる試みは日本で実現していたのです。
このシャープ製のJ-SH04は、科学技術の発達史上で重要な成果を示し、次世代に継承していく上で重要な意義を持つ科学技術史資料として、国立科学博物館の「未来技術遺産」に2014年(平成26年)に登録されます。
携帯電話端末にカメラが付いているなど当たり前の話ですが、その始まりには、日本の企業人たちの創意工夫と努力があったのですね。
[文/坂本正敬]
[参考]
※ 業界初のモバイルカメラ付き携帯電話 – SHARP
※ 平成の日本から生まれた大発明! カメラ付き携帯電話【山下メロの平成レトロ遺産:047】 – 週プレNEWS
※ 業界最下位のJ-PHONE×シャープが2位に急浮上…iPhoneより7年早く世界初カメラ内蔵携帯を発売できたワケ – PEESIDENT WOMAN
※ J―フォン、極秘CM撮影 藤原紀香さんが振り返る写メ – 朝日新聞
※ 国立科学博物館、写メール初号機「J-SH04」を未来技術遺産に登録 – ケータイWatch
※ フジカラー 写ルンです、カメラ付き携帯電話など 49 件の「重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」の登録と登録証授与式について – 国立科学博物館
※ 写メール – 東京コピーライターズクラブ