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中国製「航空機」は日本で売れるのか?世界戦略の現状と課題

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中国製「航空機」は日本で売れるのか?世界戦略の現状と課題

中国の電気自動車メーカー「BYD」が世界的な存在感を高めています。日本でも販売を開始し、健闘しているのです。一方、航空機の分野でもボーイングやエアバスに挑む民間航空機製造を進める中国メーカーがあります。中国製航空機は世界へ広がるのでしょうか。現状と課題について航空ジャーナリストが解説します。

日本で健闘する中国製自動車BYD

新型Seal(提供:BYD)
新型Seal(提供:BYD)

中国の新興自動車メーカー「BYD」が大きな勢いで生産台数を伸ばしています。その数は、2023年の単年で300万台を超えたといいます。2009年に量産EVメーカーとして世界で確固たる地位を築いた米国テスラの同年販売台数は180万台ですので、後発ながらBYDの販売台数は目を見張るものがあります。BYDの車は、諸外国でも受け入れが進んでいます。初の海外工場はタイで完成し、ブラジルやハンガリーでも着工しています。

Dolphin(提供:BYD)
Dolphin(提供:BYD)

BYDは2023年から日本でも販売を開始し、1年間で1,446台を売り上げました。この数字を他の外国車と比べると、1位のベンツで5万台超え、10位のポルシェでも8,000台を超えており、決して多い数字ではありません。それでも、韓国の現代自動車の販売台数が500台に満たない数と比較すると、BYDは初年としては健闘したといえるでしょう。

BYDは、すでに日本全国で58カ所のディーラー店舗を構えるまでになりました。技術力と価格競争力で一部の消費者から支持を得つつあり、この成功は中国製品が日本市場で一定の評価を得られる可能性を示しています。では、中国の航空機製造の状況はどうなのでしょうか。

1,050万人以上の輸送実績を持つ中国の航空機製造会社COMAC

提供:中国東方航空 COMACのC919型機
COMACのC919型機(提供:中国東方航空)

中国航空機メーカーの中国商用飛機/COMACは2008年に設立され、世界に名だたる航空機メーカーのボーイングとエアバスに対抗する民間航空機の製造を続けています。同年、日本では三菱航空機株式会社が設立され、YS-11以来の50人乗りを超えるリージョナルジェット機「MSJ」の製造計画に沸いたのですが、最終的に中国に大きく差を付けられてしまいました。

COMACは小型から大型まで3種の機体を製造、開発しています。最初に製造したリージョナルジェット機「ARJ21」は100機を超える受注を受け、2016年に商用飛行を開始。2023年暮れには輸送旅客数1,000万人を達成しました。次に製造ラインに乗った、ボーイング737とエアバスA320クラスの狭胴機と競合する「C919」は、日本がMSJの製造を断念したのと同じ2023年に商用飛行を開始し、中国国内ではすでに50万人以上の乗客を輸送する実績を誇っています。

さらにCOMACは、世界で2社に絞られるボーイングとエアバスの市場に入り込もうとするワイドボディ機の中~大型機市場に、いまだ開発段階ではあるものの、「C929」を投入しようとしています。この機体は一時ロシアとの共同開発を目指し、機体名にもロシアのRを入れてCR929と呼ばれていましたが、現在は中国主体に変わりました。

COMACの日本市場進出が難しい理由

2023パリエアショーでのCOMAC屋内展示(撮影:筆者)
2023パリエアショーでのCOMAC屋内展示(撮影:筆者)

航空機の構成部品は数百万といわれ、自動車の数万と比べると、より複雑な工業製品といえます。このような精密で繊細な運用を必要としますので、海外での購買は安全性を念頭に置くと非常に限られています。現在では世界で1社のみ、インドネシアの小さなTrans Nusaエアラインが世界初の中国外での導入企業となりました。現在、4機のエアバスA320とともに3機が同社で運航しています。

このようにCOMAC機が海外市場、特に日本市場に進出するには多くの問題が残っています。自国で運航ができる中国民用航空局/CAACの型式証明は取得していますが、最も大きな課題のひとつは、アメリカ連邦航空局/FAAや欧州航空安全機関/EASAの型式証明を取得できていない点です。これにより、国際的な航空会社や日本国内の航空会社が導入する際に信頼性や安全性への懸念が生じる可能性があります。

それでは、2つの認証をどう取得していくのでしょうか。これまでも、欧州エアショーでは屋内展示を行ってきた中国ですので、2025年のパリエアショーでは、飛行展示は難しくても地上展示を行う可能性はあります。

中東欧は、中国の一対一路政策により支援を受ける国も多く、中国に配慮する傾向があることも後押しになっています。比べて、米中貿易摩擦などで敵対する米国のFAA認証の取得のハードルはかなり高いと言わざるを得ないでしょう。欧米の認証は、今や世界の航空業界の標準になっていますので、世界の空を制覇するには中国製航空機の将来は不透明です。

それでも中国国内と、今後のロシアの再支援の状況次第では中ロ2国での発注だけで1,000機を超える可能性があり、目が離せません。また、現在のところ、報道に頼るしかありませんが、COMAC機での事故の報告は出ておらず、安全飛行時間の更新を続けているものとみられます。

COMACが日本市場で成功するために必要なこと

2023パリエアショーでのCOMAC屋内展示2(撮影:筆者)
2023パリエアショーでのCOMAC屋内展示(撮影:筆者)

電気自動車市場におけるBYDのように、コストパフォーマンスや中国政府の支援が大きな後押しになる可能性もあります。日本国内では、ANAやJALの主要航空会社は、すでにボーイングやエアバスの機材を中心に西側諸国の機体を運航しています。そのため、C919がこれらのメーカーと競合するには、価格だけでなく性能や信頼性でも優位性を示す必要があります。日本では国民感情の変化がまず最重要課題になるでしょう。

COMACが日本市場で成功するためには、まず国際的な安全基準をクリアし、FAAとEASAの認証を取得する必要があります。また、ボーイングやエアバスといった既存の競合メーカーに対抗するための明確な差別化戦略が求められます。現在、サプライチェーンの混乱でボーイングやエアバスでも製造に時間がかかるケースがありますので、COMACで発注から受領までの時間が短縮できるのであれば、販売のチャンスになります。

BYDの電気自動車が世界市場に浸透しつつあるように、COMACの航空機も今後の技術的確証が得られ、価格面での強みを活かせば、中東欧・アジア・アフリカ・南米などで一定の成功を収める可能性があるといえるでしょう。

航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram @kitajimaavianwing

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