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酔った社長の息子に襲われて…「辞める前に意思を示したい」27歳女性の訴えは届くのか

学び

社会の意識も厳しく変わってきた

相原:このように、セクシュアル・ハラスメントに関する会社の義務は重いので、弁護士に相談すれば、加害者をかばって必要な対処をしないリスクは重大で割に合わないと分かるはずです。また、Me Too運動なども経て今は社会の意識もセクシュアル・ハラスメントに対して厳しく変わってきています。

 例えば最近、自衛官だった女性が在職中に男性自衛官らから受けた性暴力被害を訴えた件で、男性らは一度不起訴になったものの、“被害をなかったことにはさせない”という女性の勇気に多くの賛同が集まり、検察審査会で不起訴不当とされ再捜査になりました。また、最終的に防衛省も事実を認めて謝罪し、職場の実態調査につながるなど、被害者の声が職場を変える動きもあります。

なぜ被害者の言動を問う声があがるのか?

セクハラ

――事例の女性に対し、「なぜ、役員にはっきり断ったり、すぐに会社に抗議しなかったのか」と責める声が社内にあるようです。そのような捉え方をどう考えますか?

相原:性暴力の場合、被害者の言動の落ち度を問うたり、そのことで被害の否定や合意の存在を指摘する風潮が依然ありますが、誤った反応です。

 性暴力被害者の心理や対処行動は、安易に常識で判断できるものではないことが専門的知見として確立しています。恐怖や混乱の最中にとる対応が、誰もが同じはずはありません。裁判例でも、想定される行動パターンに合致しないから嘘だなどとは言えないこと、公にしにくい性的被害の性質や失職の恐れから、被害者が明確に拒否せず、事後も他人に被害を悟られないよう平静を装うことも十分あり得ることが理解されています。

 そもそも、セクシュアル・ハラスメントでは、なぜ被害者の言動を問う声があがるのでしょう。セクシャルな要素のないハラスメントや暴力被害では、そんなふうに被害者の言動を問いませんよね。

 被害者に原因を求めることは、加害者の行為を矮小化して許し続けるのと同じです。その背景には、女性を軽んじる差別意識や男女役割への固定観念があると思います。女性の人格権や性的自由を軽視し、男性に異を唱えない補助役とみるとか、男性同士は性的な冗談で親密になるものだとか、女性を邪魔な侵入者と見るとか……。職場からこうした差別意識や無意識の固定観念をなくしていくことも、会社に求められていることです。

<取材・文/吉田典史>

【相原わかば】
首都圏と北海道育ち。一橋大学法学部卒業。1995年に弁護士登録。福岡県弁護士会所属。DV、ハラスメント、性暴力など女性が直面する問題に取り組み、家事事件、労働事件の他、労災職業病事件、消費者事件、一般民事事件などを扱う

ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』『あの日、負け組社員になった…』(ダイヤモンド社)など多数

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