ヤマシンフィルタと信州大学が共同研究、ナノファイバーで環境・医療・EV領域へ参入

ヤマシンフィルタの山崎敦彦代表取締役社長(左)と信州大学繊維学部の金翼水(キム・イクス)卓越教授
ヤマシンフィルタと信州大学は、ナノファイバーを軸とした次世代機能素材の開発・社会実装を目指す「SHIN-PROJECT(シン・プロジェクト)」を始動した。PFAS規制の強化や医療・介護現場の人手不足、EV・AIインフラの普及などを背景に高機能素材への需要が高まる中、両者は共同研究契約を締結し、産学連携による研究開発を進める。
目次
ろ材開発技術から生まれた新領域への挑戦

綿のような状態に加工されたヤマシンフィルタのナノファイバー
1956年創業、横浜市に本社を置くヤマシンフィルタは、ショベルカーやブルドーザー、工場設備などの内部を流れるオイルや空気からゴミや異物を取り除き、機械の性能や寿命を維持するための建設機械向けフィルタを製造するメーカーだ。
その技術を応用して開発したのが、髪の毛の120分の1程度の細さを持つ「ナノファイバー」だ。当初はフィルタ用途として研究されていたが、開発の過程で、保温性や吸音性、電磁波対策などの機能も確認された。同社はこの特性に着目し、これまでの「物質を分離するフィルタ」から、「熱・音・電磁波を遮断・制御する機能素材」として応用の可能性を見出し、目に見えない領域の課題を解決する次世代機能素材として、機能性衣料や医療・介護、EV、データセンター分野への展開を視野に入れている。その実現に向けて連携するのが、国内唯一の繊維学部を持つ信州大学だ。
信州大学繊維学部のキム・イクス(金翼水)卓越教授の研究室とともに、ヤマシンフィルタ独自の大量生産技術(メルトブロー方式)とナノテクノロジー研究において世界的な実績を持つ大学の知見を融合させ、研究開発のスピードと技術水準を高める体制を構築した。
共同研究で挑む3つの重点領域
今回の「SHIN-PROJECT」では、2030年の製品化・社会実装を前提とし、環境・資源、医療・介護、次世代インフラの3領域に向けた機能素材の開発を同時に推進する。
環境・資源リスクへの対応
欧州を中心とするPFAS(有機フッ素化合物)規制の強化に伴い、防水・撥水素材の代替が急務となっていることから、石油依存脱却も視野に入れ、植物由来のバイオプラスチックを用いた「PFASフリー撥水素材」や「バイオマスエアロゲル」の開発を進める。ナノファイバー化技術により、空気は通すが水は通さないという高機能を維持しながら環境負荷を低減し、薄型かつ高断熱な省エネ素材の実用化を目指す。
超高齢化・人手不足への対応
医療・介護現場の人手不足に伴う、24時間の常時見守りニーズに対応する。ナノファイバーは皮膚との接触面積を大きく取れるため、1cm角の小面積でも正確な生体データを取得できる。この特性を活かした高感度な「生体センサー」や、電池交換の負担を解消する「自己発電センサー」の開発により、高齢者や患者の見守り負担を軽減し、医療・介護現場の業務効率化に貢献する。
次世代インフラ技術への対応
EV(電気自動車)やドローンの普及、AIインフラの定着に伴い、電子機器の高性能化が進む一方で、熱対策や電磁波干渉、軽量化が大きな課題となっている。柔軟なシート状のナノファイバーの表面に金属コーティング等の処理を施すことで、薄くて軽量ながら高い遮蔽能力を持つ「電磁波遮蔽(EMC)素材」や、モビリティの低周波騒音を低減する「吸音素材」を創出する。
2030年に向けた実装ロードマップと事業目標
本プロジェクト最大の特徴は、単なる基礎研究にとどまらず、市場展開を見据えた社会実装を宣言している点だ。実用化に向けては、3カ年のスケジュールを策定。1年〜1年半で基礎研究と試作を進め、2〜3年で安定供給体制(量産体制)を構築、3年目以降は、持続可能な素材開発で社会実装の本格展開を行っていくという。
こうした研究開発の一方で、アパレル分野ではすでに利用が進んでおり、従来のコートの10分の1の厚さで同等の保温性を発揮する薄型防寒素材として、パリコレクション出展メーカーやゴルフウェアメーカーへの採用実績もある。
機能性素材の潜在市場は、全体で約92兆円規模にのぼると推定されている。ヤマシンフィルタは、この新プロジェクトを起点とした新素材ビジネスにより、2030年には機能素材事業の売上を約213億円とする計画を掲げている。さらには、既存のフィルタ事業と合わせた全社売上高約500億円の達成と、時価総額約3,000億円を目指す。
発表会で山崎社長は、「中堅中小企業の発展のポイントは技術開発にあります。会社として新しい分野に挑戦していく姿勢が大事です」と語った。一方、金教授は「今回の研究は単なる企業との共同研究ではなく、人材育成まで含めた一つのプラットフォームになる。大学は研究を行い、論文を書いて終わりではなく、プロの集団と手を組み、技術を我々の生活の中に広げていきたいと考えております」と抱負を述べた。
量産技術を持つ企業と先端研究を手掛ける大学が手を組み、研究開発から社会実装までを見据える「SHIN-PROJECT」。医療、モビリティなど複数分野への展開を視野に入れた取り組みが、今後、実際の事業としてどこまで広がるのかが注目される。
文:寄稿