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バイデンとトランプの意外な共通点。2人の奇妙な連続性と「世界の警察官」を卒業する日

米大統領選まで半年となった。これまでのところ支持率で両者は拮抗しているものの、バイデン大統領をトランプ氏が若干リードする展開となっている。

そのため4月には、国賓級の待遇を岸田総理が受けた2週間後に、ニューヨークにあるトランプタワーを副総理の麻生太郎氏が訪れトランプ氏と会談した。「もしトラ」対策の一環である。

このトランプ氏とバイデン大統領、何かにつけて意見が対立し、価値観も根本から異なっているように日本人には見える。しかし実は、意外にも共通点は存在するらしい。

しかも、その共通点が今後、日本にとって難しい状況をつくる可能性が高いと専門家は指摘する。

そこで今回は、全く異なるように見える2人の意外な共通点とは何なのかを、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに教えてもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。

相容れない両者には共通点もある

トランプ氏とバイデン大統領はお互いをののしり合うくらい考え方が全く異なる。

国際協調主義を掲げるバイデン大統領は、ウクライナや台湾の直面する課題を、民主主義と権威主義の戦いと位置付け、ウクライナへの軍事支援の重要性を強調する。

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一方、トランプ氏は「ウクライナ支援を最優先で停止する」「十分なお金を国防に費やさないNATO(北大西洋条約機構)加盟国は守らない。ロシアに自由にやるようけしかける」などと発言し、同盟国軽視の姿勢を示している。

移民や難民に対する寛容さも全く違う。

国連やNATO(北大西洋条約機構)をバイデン大統領は重視するが、米国の具体的な利益に直結しない存在とトランプ氏はそれらを捉える。

両者の主義主張は全く異なる。海を越えた日本から見ると両者は、全く相容れないように余計に映る。しかし、両者には意外にも共通点が存在する。

2人の間に生じる奇妙な連続性

その典型的な例が対中姿勢である。トランプ氏は政権1期目、米国の対中貿易赤字に不満を強め、中国に対する追加関税で圧力を仕掛けた。

その結果、米中貿易戦争が激化したが、バイデン政権になってもその姿勢は継承されている。

バイデン大統領は、トランプ時代に発動された対中規制を解除しないばかりか、人権や半導体などの分野で中国への貿易規制をむしろ強化している。

中国との戦略的競争を最大の外交課題と同大統領も認識しているため、2人の間に奇妙な連続性が生じている。

筆者の知る限り大統領が、トランプ氏の対中認識を非難する主張は聞いた覚えがない。

世界の警察官から卒業

トランプ氏が、アメリカファーストである点は有名だ。外国の紛争には基本的には関与しない。非介入主義に撤する。

この点実は、今日のバイデン政権も変わらない。バイデン政権は、2021年(令和3年)8月にアフガニスタンから米軍を撤退させ、ロシアによるウクライナ侵攻前には米軍のウクライナ派兵はないと断言した。

いわば、非介入主義的な姿勢を鮮明にしており「世界の警察官から米国が卒業した」という認識は両者共に共有しているのだ。

日本に圧力を強化してくる可能性

対中認識を共有する両者は日本重視の姿勢も共通している。中国による台湾侵攻や太平洋進出に対処する上で同盟国の日本に積極的な役割を期待している。

地政学的に、米国にとって日本は、中国の太平洋進出を抑える意味で防波堤的な立場にある。

防衛費の増額や自衛隊・米軍の一体行動など、これまで以上の役割や負担を日本がシェアする展開を両者とも望んでいる。

もちろん韓国も、米国の同盟国である。しかし、米韓同盟は、対北朝鮮に特化した極地同盟という意味合いが強い。

米韓同盟の規模も日米同盟よりはるかに小さい。日米同盟の方がより広範囲な同盟(インド太平洋の広い範囲)である。その分米国は、日本への期待が強いと言えよう。

「世界の警察官」ではなくなり、自国の利益のために敵意むき出しで中国と戦う国が今の米国なのだ。

その中国と、立地的にも近い同盟国が日本である。

秋の大統領選でどちらが勝っても、中国への厳しい姿勢に変わりはなく、米中対立は今後とも長期的に続くと日本人は認識すべきだ。

米中の力が拮抗するほど米国は、一層厳しい姿勢を焦りから中国に取る可能性が高い。結果、同盟国である日本に足並みをそろえるよう圧力を強化してくる可能性も排除できない。

日本にとって難しい時代が訪れようとしている。
 
[文/和田大樹]

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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