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恐怖の「ブラック企業体験イベント」に見る19の特徴。私の会社は大丈夫?

ビジネス

ブラック企業が恐れているもの

 社長面談が終わって着席すると、何やら慌しい様子。

「いま労基が向かっているらしいです!」と情報が入った瞬間、上司たちは青ざめました。

「なんだって!? おい、疑わしい張り紙は剥がせ!」
「お前ら、なに聞かれても『新入社員だからわかりません』って答えろよ!」

 到着した労働基準監督署の職員は、賃金台帳・出勤簿・労働者名簿のチェックと社員のヒアリングを行いました。

 職員が「先月は給与以外に交通費などは支払われていますか?」「有給は何月から取れると聞いてますか?」と新入社員に質問しますが、「新入社員なのでわかりません」と答えさせ、実態を隠し通しました。

【ブラック16】労基の調査でも、事実を隠滅

 ギリギリのところで労基の目をごまかすと、誰が申告したか犯人探しが始まりました。

「……私が言いました」

 過労の社員を気遣っていた女性社員でした。

ブラック企業

内部告発した女性社員に非難囂々

「なんだとー!?」

 女性は「こうでもしなきゃ会社が変わらないじゃないですか」と訴えますが、上司たちにその思いが届くはずもありません。「チクリなんて最低の人間がやることだからな」と怒り心頭です。

 パニックになった女性社員はしゃがみこみ、ついに「会社……辞めます」と退職宣言。

「あーわかりました。もう辞めてもいいよ。その代わり、お前のノルマ未達成の罰金300万、会社への迷惑量200万円、全部払ったら辞めさせてやる」

【ブラック17】退職時に高額な罰金を要求

「そんなの無理です」と泣き出す女性社員に、上司は「会社、やっぱり残ろうよ。もう一回頑張ってみよう」と優しく声をかけます。そして最終的には「やっぱり、わたし会社に残ります」と丸め込まれ、涙ぐみながら「スーパー! ミラクル! ハッピー」を繰り返していました。

 勇気を出して声をあげた人でも、結局ブラックの魔力から抜け出すことができなかったことに問題の深刻さを感じます。

 最後は反省文を書かされることに。しかし、とてもじゃないけどブラック企業の上司たちに本音は言えません。上司が求めていそうな内容を考えて、それを原稿用紙に書き出していきます。

ブラック企業

上司のために自分の考えは殺さなくてはならない

「会社で決まっているルールには従い、余計なことは考えずに業務に全うすべきだと感じました」

 これは決して本心ではなかったはずなんですが、書き出して、口に出して発表すると、自分の思考の数%がこの考えに染まったような感覚がありました。これを毎日続けられたら、あっという間に考え方や性格まで変わりそうです。

 他の人も「なにもわからない私に、一つひとつ教えてくれました。未熟さのせいで迷惑をかけてしまいました」「最初は完全歩合なんて無理だと思いましたが、100万円も稼ぐ人もいるし、私に足りないのはやる気だったんだと思います」と自分の至らなかった点をあげ、上司たちにお礼をを述べていました。

【ブラック18】言わされているような反省文

「終業時間は過ぎたがお前らにはまだまだ仕事をしてもらいたいと思う。これ書けたら帰っていいからな」

 課題として出されたのは、お客様へのDMを手書きで書くというもの。ノルマは1人50枚。すぐには終わりそうもありません。残業は当たり前であることを突きつけられました。

ブラック企業

そもそも手書きメッセージ50枚という業務内容も罰のようだ

【ブラック19】当然のように残業させられる

 ここでイベントは終了。緊張状態を緩まった瞬間、どっと疲れが押し寄せてきました。

ブラック企業体験をコンサルに活用したい

 今回のイベントを主催したのは広告会社の株式会社人間。30人の枠に対し、応募は約250人も殺到しました。ホームページで募ったブラック企業の約80のエピソードもとに脚本が作られ、副社長の激怒や星占いクビ宣告も本当にあった話でした。セクハラについては参加者を配慮して反映させていないそうです。

 イベントの狙いは、架空のブラック企業を体験をしてもらうことで、自社の職場環境を見つめなおすきっかけにしてもらうこと。その趣旨に沿うように、応募者の中から代表取締役や役員を優先的に当選させたそうです。その上で、株式会社人間の花岡洋一代表は次のように語ります。

ブラック企業

役者兼演出の益山貴司氏(左)、株式会社人間の花岡洋一代表(右)

 

「わざわざこのイベントに参加している社長はブラックではないと思います。そういう意味では、本当に伝えるべき人には届いていないかもしれないです。だから、もしブラック企業で悩む総務や人事の方からリクエストがあれば、社長に体験してもらってコンサル的に実施できたらいいですね。今回は一日限定のイベントなので、それまでできてゴールです」

 演出した益山貴司氏は、役から解かれ表情を柔らかくしてこう話します。

「演じるのはとても辛かったですが、演じているうちにドライブがかかってどんどん過激なアドリブをしていました。イベントが始まる前は、参加者の人が指示に従わなかったり反抗したりしたらどうしようという不安もありましたが、みなさんあまりにも従順で驚いたくらいです。最後の反省文もクオリティが高く、こうやって人は自分の気持ちを偽れるのかと怖くなりました」

 筆者が全体を通して一番痛感したのが洗脳の怖さです。というのも、ブラック企業体験なので怒られることはある程度覚悟していましたが、案外優しい言葉や褒め言葉もかけてもらうことがありました。そうすると「この人は悪い人ではない」「怒られるのは間違えたことを正してくれているだけ」「上司に認めてもらいたい」という心が芽生え始めていたのです。

 こういったアメとムチや同調圧力に加え、ましてや初めての社会人というときだったら自分の思考をキープする余裕はありません。これは体験してみないとわからなかったことです。ブラック企業は気づかないうちに身も心も蝕んでいく恐ろしい環境でした。

<取材・文/ツマミ具依 撮影/林紘輝>

企画や体験レポートを好むフリーライター。週1で歌舞伎町のバーに在籍。Twitter:@tsumami_gui_

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