ニューヨーカーの65%が生活費のために副業を持っている【世界の働き方事情・アメリカ】
海外在住ライターや海外で働いた経験を持つライターが、各国の仕事事情を紹介するシリーズ「世界の働き方事情」。
世界一の経済大国といわれるアメリカ。その中でも全米最大都市ニューヨークの職業事情については、あなたも興味があるのではないでしょうか。最終回は、米ニューヨークの副業事情を、現地在住ライターが紹介します。
目次
何が本業?夢を持った人たちが集まるニューヨーク
「ミュージカルの舞台に立ちたい」「ファッションモデルになりたい」「俳優になりたい」「ジャズ(またはロック、クラシックミュージック)で成功したい」「自分の描くアートを皆に見てもらいたい」「ビジネスで成功したい」など、夢を持った人たちが世界中から集まるニューヨーク。
夢と希望を抱いてやってきたものの、目指す職業で生活ができるようになるまでは、別の職業で生計を立てる必要があります。ニューヨーク市のカフェやレストランで働いている美形のサーバー(ウェイターやウェイトレス)は、モデルや俳優の卵が多いです。現在はオフィスワーカーであったり、飲食関係で働いている場合も、もともとはアーティストや芸能関係を目指していた人だったりします。
本業とは、「生涯を通じてやりたい仕事」、あるいは「生活のための収入源になる仕事」のどちらを指すのでしょうか。多くの人が生きていくために本意とは違う仕事をしており、生活のための収入源を「本業」と呼ぶのには抵抗がある場合もあります。筆者にしてもライターは生涯の仕事ですが、ライターで生計を立てることはできません。
ニューヨーク市に住む65%が生活費のために副業を持っている
アメリカでは、副業のことをサイドハッスル(Side Hustle)といいます。「すきま時間に精を出す仕事」の雰囲気が、よく出ている言葉ですよね。インターネットで調べてみたら、アメリカのサイドハッスル専門ウェブサイトがたくさんありました。
NY Betの調査(ニューヨーク州に住む1000人に調査/2023年5月掲載記事)によると、ニューヨーク市に住む65%が副業を持っているという結果が出ました。上記で記したように、ニューヨーク市には副業が必要な夢追い人が多いこともあります。
また家賃、物価が高いニューヨーク市では、本業だけでは生活費が足りないことも大きな理由です。仕事を持つ半数以上のニューヨーカーが、現在の収入では生活費が足りないと感じ、やりくりに苦労しています。
関連記事:【世界の働き方事情・アメリカ】最低時給2,300円でも50%は生活費のやりくりに苦労
さまざまな副業を持ったニューヨーカーたち
【多額の学生ローンを抱えたA君の場合】
大学を卒業後、新卒の就職難で就職が決まらないアメリカ人のA君。学生ローンで大学の費用をまかなったため、多額の借金があります。パートタイムで、スーパーマーケットのキャッシャー(レジ)をやっていますが、とてもそれだけでは足りません。
彼にとって本業はどれということもなく、複数の仕事を持ち、生活費とローンのやりくりをしています。
1. ひとつは「スーパーマーケットのキャッシャー」。時給は最低時給の16ドルですが、シフトが安定しているので固定収入として望めます。
2. 自宅では、「株式投資」を行っています。パソコンもしくは携帯電話があれば手軽にできるので、株式投資を副収入としている人は多いようです。彼は高齢者医療の製薬会社に投資しているそうで、現在は手堅く利益が出ているといいます。投資を始めたばかりのときには失敗してお金を失ったとのことで、リスクは高いといえるでしょう。
3. 単発で、「ドッグシッター」のバイト。ニューヨーク市では犬を飼っている人が多いので、需要の高い仕事です。犬の散歩、給餌、飼い主が帰るまで遊んであげながら留守番。5時間で100ドルだそうで、良い収入です。
散歩のみのドッグウォーカーや、飼い主の旅行中に愛犬を預かる仕事も需要があります。もちろん猫の面倒を見る仕事もあります。
【ロックバンドのギタリストB君の場合】
ロックバンドのギタリストをしているアメリカ人のB君。まだバンドだけで食べていくことはできず、複数の仕事をしています。
1. 「ロックバンドのギタリスト」(マンハッタンでライブステージのほか、ヨーロッパツアーなど)
2. 「居酒屋のコック」。シフトが安定しているので、固定収入。時給は17ドル。前職を含め、飲食業界は長いそう。
3. 料理が手早く器用なので、コック仲間のグループで引き受ける「ケータリング(仕出し)」の仕事も単発で入ります。年末にはパーティ用に、100人前のケータリングを受注して、高収入を得たそうです。
4. マンハッタンにアパートを借りていますが、自分はブルックリンに引っ越して、「旅行者用にアパートを貸し出し」ています。ニューヨーク市のホテルは恐ろしく高いので、旅行者は手頃な価格の宿泊先を求めているのです。特におしゃれな部屋でなくても、ダウンタウンの人気ロケーションにあるので借り手には不自由しないそう。ただし、ニューヨーク市は短期賃貸の民泊は違法として禁止しています。
【1日に2つの仕事を掛け持ちするコロンビア人のCさんの場合】
コロンビア人のCさんは、日曜日以外は休まず、2つの仕事を掛け持ちしています。どちらも本業であり、差をつける必要もないのでしょう。
1. 朝から夕方まで「カフェのキッチン」
2. 夕方から5時間程度 「レストランで皿洗い」
ニューヨーク市にはコロンビアやメキシコなどラテンアメリカから来ている人が多く、彼らは「ニューヨークで稼ぐ」ことが目的。そのため長時間働くことを嫌がらず、むしろ多くの時間を働きたがります。家族や友人のネットワークが強固(常に電話で情報交換)なので、職場で空きポジションが出ると家族や友人を勧めてくるのも特徴。
経済協力開発機構(OECD)の年間労働時間(全就業者)によると、2022年の1位はコロンビアで2,297時間、2023年の1位はメキシコで2,207時間。コロンビアの法定労働時間は現在週47時間、メキシコは週48時間で、両国とも国際的にも長時間労働(将来的には労働時間を短縮する方向)のお国柄なのです。
週末は副業で稼ぐ!ニューヨーカーが週末に行う副業とは
筆者の知る範囲で、ニューヨーク市には、週末に下記のような副業をしている人がいます。
● 愛車を使用して、ウーバー・ドライバー
● ツアーガイド(旅行者の観光案内)
● ガレージセール(ガレージで自宅の不用品を売る。住宅地で見かける)
● インフルエンサー(TiktokやYoutube、インスタグラムなど)
● フリーランス用のウェブサイト(Upwork, Fiverr,Fleelancer)から、IT、デザイン、会計、翻訳、ライターなど在宅でできる仕事を受注
● スーパーマーケットのキャッシャー
● 週末フリーマーケットの販売スタッフ
求人サイト(Indeed)での副業の募集内容とは
求人サイトIndeedでは、ニューヨーク市内の副業として下記のような募集が出ています。過去に得た資格や技術があれば、副業で大きく活用できそう。資格がなくてもセンスや体力で出来るものもあるので、探してみる価値がありそうです。
TikTokライブストリーマー – バーチャルセールス(ホームグッズ)
勤務地:ニューヨーク市 ヘラルドスクエア
時給20ドルから50ドル
放課後小学校のピアノ教師
勤務地:ニューヨーク市 アッパーイーストサイド
時給75ドルから125ドル
救急隊員(パートタイム/日当)
勤務地:ニューヨーク市 ウィリアムズバーグ
1時間あたり28ドルから35ドル(日給)
パートタイム ライセンス理学療法士(日曜日のみ)
勤務地:ニューヨーク市 ブルックリン
時給55ドル
Indeed Side Hustle
趣味から本業へ
世界で注目度の高いニューヨークは、グルメやファッションのトレンド発信地。趣味の食べ歩きをSNSで発信しているうちに、人気インフルエンサーになった人もいます。新規開店や新製品の宣伝に、インフルエンサーによる発信は、今や定番となってきました。
現在の仕事に今ひとつ充実感を感じないあなたは、転職の前にまず副業を始めてみるのもよいかもしれませんね。あなたの持つ趣味や才能、資格が必要とされ、人の心を動かすかもしれないのです。副業が成功すれば、本業へステップアップする可能性もあります。一般企業の会社員では味わえない、ビジネスの楽しさそして厳しさを知ることができ、人生の未知の扉が開かれるかもしれませんよ。
4回にわたる世界の働き方事情・アメリカの連載は今回で終了です。ご愛読いただき、ありがとうございました。
【参照】
Hustle or Bust: Over Half of New Yorkers Need a Side Gig to Survive: NY Bet 2023年5月17日
OECD Data Explorer • Average annual hours actually worked per worker
政府の労働法改正案が明らかに、原則無期契約による雇用安定化を検討(コロンビア):ジェトロ 2023年03月06日
労働時間を短縮する憲法改正に向けた公聴会を実施へ(メキシコ):ジェトロ 2023年10月10日
フリーランスウェブサイト
https://www.upwork.com/
https://www.fiverr.com/
https://www.freelancer.com/
[文/青山沙羅]
はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。
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