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高齢者の外出機会が増えた!「日本一歩かない県」に起きた“奇跡”

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「日本一歩かない県」に起きた変化

タクシー

※画像はイメージ

 少し話がそれますが、鳥取県はかつて「日本一歩かない県」という汚名をもらったことがありました。2010年、厚生労働省の「国民・栄養調査」によると、20歳以上の男女で1日に歩いた数が鳥取県の男性は全国47位、つまりワースト1です

 女性も下から3番目の45位。お隣県の兵庫県の男性は1日7964歩、女性は7063歩でともに1位でした。鳥取県の男女は1位の兵庫県に対し、1日平均2000歩前後も少なかったのです。1000歩が10分のウォーキング相当とするなら、1日で20分の差がありました。

 その後、この状況を打破すべく「ウォーキング立県」を目指しており、この「鳥取県×日本財団共同プロジェクト」でも、「ウォーキング立県19のまちを歩こう」事業などに助成をして、県民の方々の健康づくり、運動習慣づくりをサポートしてきました。こういった取り組みが少しずつ成果を挙げているのですが、このようなウオーキングを目的としたイベントとはまったく別の枠組み、じつはこのUDタクシー導入が「歩く機会を増やす」一助にもなるという現象も起こっています。

「タクシー利用で歩かなくなる」の誤解

「タクシーを利用してますます歩かなくなるのでは?」と疑問をもつ方がいるかもしれませんが、たとえば、介護タクシーを利用しようとしても台数が少ないので好きな時間に予約がとれないとか、まだ自分はわざわざ介護タクシーを利用するほどではないといって、つい億劫になって外に出かけるのを控えていた高齢の方が、UDタクシーを気軽に利用し外出する機会が増えたのです

 高齢者がUDタクシー利用をする際に各市町村が助成をつけて利用を後押ししたこともあります。

「障がい者割引、免許返納者割引(ともに運賃の一割負担)の割引負担、じつはタクシー会社が負担しています。売り上げの一部が減るわけですから導入直後は不安もありましたが、障がい者、高齢者の利用が増え、また一般の方でもUDタクシーを利用したいという母数が上がってきたので、割引負担の分もカバーできています」と鳥取市内で24時間営業している「有限会社サービスタクシー」の松浦秀一郎代表取締役。

 鳥取県ハイヤータクシー協会が2020年10月1日から20日にかけて行った乗車実態調査によるとUDタクシーを10回以上利用したことのある人の割合は全体の60%、高齢者では70%、障がい者は80%にのぼっています。

 UDタクシーが増えたことで、高齢者や障がい者が事前予約しないでも好きなときに外出できる環境が整い、せっかく出かけたならあそこにも足を延ばしてみようということになり、結果、歩く機会も増えたわけです。高齢者の健康づくりにUDタクシーが貢献しているわけです。

<TEXT/日本財団鳥取事務所所長 木田悟史>

公益財団法人日本財団鳥取事務所所長。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日本財団入団。総務部や助成事業部門を経て、NPO向けのポータル・コミュニティサイト:通称「CANPAN」(カンパン)の立上げに関わり、企業CSR情報の調査等を担当。2011年に発生した東日本大震災発災後は支援物資の調達や企業と連携した水産業復興支援事業のため、約3年間東北地方と関わる。著書に『ゆたかさのしてん――小さなマチで見つけたクリエイティブな暮らし方』(今井印刷)がある

みんなでつくる“暮らし日本一”「鳥取県×日本財団共同プロジェクト」から学ぶまちづくりのヒント

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キーワードは「濃いつながり」「おせっかい人材」「学びの場」!“暮らし日本一”をコンセプトに推進されたプロジェクトでは何を拓き、何を成し遂げ、何を学んだのか?6年間にわたるその全貌は多種多様なヒントに溢れている

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