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コロナ禍の今、駄作と言われた『ゲド戦記』が再評価されるべき4つの理由

暮らし

4:ひとつしかない命を生きることを恐れない

ジブリ

 本作のテーマのひとつは、「限りある命の大切さ」です。テルーの「死ぬことがわかっているから、命は大切なんだ」や、ハイタカの「わしらが持っているものは、いずれ失わなければならないものばかりだ。苦しみの種であり、宝物であり、天からの慈悲でもあるわしらの命も……」というセリフなどから、そのことがわかります。

 それこそ説明的すぎるほどに語られているこのテーマは、やはりコロナ禍で誰もがより死の危険に晒されている状況だからこそ、より響くものにもなっています。

 現実で感染したとおぼしき者への攻撃、誹謗中傷や差別をしてしまうのは、それこそ「自分自身の死(感染)を恐れすぎてしまっている」ことが理由のひとつでしょうから。クモがただただ不老不死を追い求め、そのために身を滅ぼすことも、そのことの反映でしょう。

コロナ禍こそ、かつてない説得力を持つ

ジブリ

 さらに現実では、新型コロナウイルスに感染した30代の女性が、自宅療養中に自殺をしてしまう痛ましいという言葉では足りない出来事も起こっています。そして、劇中で、自暴自棄になり命を投げ捨てようとするアレンの言動は、父を殺してしまい、しかもその動機が自分でも良くわかっていないという、とてつもなく重い罪を背負っていたがためでしょう。

 そこまでではなくとも、現実で自身が犯した罪の重さに耐えきれず絶望してしまう若者は多いでしょうし、コロナに感染してしまった(感染を広げてしまったかもしれない)ということを、必要以上に重く受け止めてしまう人も少なくはないはずです。

 テルーは「アレンが怖がってるのは死ぬことじゃないわ、生きることを怖がってるのよ。死んでもいいとか、永遠に死にたくないとか、そんなのどっちでも一緒だわ。ひとつしかない命を生きるのが怖いだけよ」とも告げていました。これも真理でしょう。

 現実でより死の危険に晒されているコロナ禍の世界では、より人は死にたくないと願うでしょうが、その一方で不安に押し潰され絶望し自殺を選んでしまう人もいる。そんな時に本当に恐れてはいけないのは、「ひとつしかない命を生きること」なのだと、『ゲド戦記』は今の時代に、かつてない説得力を持って教えてくれているのです。

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