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スーツ離れで市場半減も増益 クリーニング大手『白洋舍』生存戦略の正体

リモートワークが定着した現在、スーツを着る機会がめっきり減ったというビジネスマンは多いだろう。面倒な管理などが減り、そのありがたさに恩恵を感じる一方、大きな打撃を受けているのがクリーニング業界だ。従来のクリーニングのメイン需要であった、スーツやワイシャツといったビジネスウェアを着る機会が減れば、クリーニングを利用する理由もなくなるのは当然だ。さらに、自宅で洗えるスーツや高性能な洗濯機・洗剤の台頭が追い打ちをかけ、市場は年々縮小傾向にある。

白洋舍 マーケティング戦略推進部 穐津健太さん

そうした逆風の中でも、堅調な業績を維持する企業がある。業界大手の『白洋舍』だ。2026年2月に公表された通期決算(2025年12月期)によれば、連結経常利益は前期比4.0%増の26億円を計上。次期も増益を見込んでおり、達成すれば4期連続となる。縮小し続ける市場の中で、なぜ白洋舍は利益を生み出し続けられているのか。マーケティング戦略推進部の穐津健太さんに、その構造と理由を尋ねてみた。

大衆クリーニング市場の隆盛と衰退

左:白洋舍 創業者 五十嵐健治/右:1907年、東京大井に開かれた日本初のドライクリーニング工場

一般的に大衆に向けたクリーニングと呼ばれているものの多くは、有機溶剤を用いて衣類を洗浄する「ドライクリーニング」を指す。フランスで発明された洗濯の方法で、日本では現在より100年以上前の1907年(明治40年)、白洋舍の創業者・五十嵐健治氏によって実用化された。五十嵐氏の『世のために奉仕できる仕事がしたい』という理念のもと、日本橋呉服町に開かれた当時の洗濯店の主な顧客は、洋装を日常的に着用する官吏や実業家、在日外国人などが中心で、庶民にとってクリーニングはまだ縁遠い存在だった。

国内初のドライクリーニングが誕生してから月日を経て、戦後の高度経済成長期にクリーニングは大衆の間にも急速に広がっていく。会社員層の拡大によってスーツやワイシャツを着て出社する働き方が一般化し、それに伴ってクリーニング需要も急成長。1990年代のピーク時には市場規模8,000億円以上、店舗数も16万軒に達する巨大市場にまで膨れ上がる。

しかしその勢いは長くは続かない。2000年代以降、ビジネスカジュアルの浸透化や家庭用洗濯機の高性能化、コインランドリーの普及などによって需要は徐々に減少していった。さらにリーマン・ショック後の景気後退、震災、そしてコロナ禍によるリモートワークの定着といった出来事がさらにその流れを加速させた。2024年に厚労省から公表された『衛生行政報告例』では、クリーニング関係営業施設数は7万件を下回ったと記載されている。

この変遷は白洋舍も例外ではなかった。「現在当社ホームページで公開されている2003年以降のすべてにおいて『クリーニング需要の減衰』という言葉が入っていました」と穐津さんは話す。2016年には約700軒あった店舗についても、不採算店舗を中心に半分以下の280軒ほどに数を減らした。

縮小する市場で、白洋舍が選んだ一手

大衆クリーニング市場が大きく後退する中、白洋舍が生存戦略の一手として選んだのは、ホテルや飲食店、病院、食品工場などを対象とした法人向けのレンタル事業(リネンサプライ及びユニフォームレンタル)だった。

同社は1960年代頃からリネンサプライ事業を展開していたが、1970年代にはユニフォームレンタル事業を展開。2000年代以降はユニフォームレンタル事業所の増設や、食品工場向けの衛生基準に対応した設備投資などを進め、法人領域を本格的に拡大。その判断が功を奏し、2019年にはレンタル事業の売上がクリーニング事業を上回った。

その後、コロナ禍ではホテル稼働の低下などにより一時的に事業が鈍化したものの、インバウンド需要の回復などを追い風に再び伸長。現在では、法人領域が同社全体の約6割の売上を担う主力事業へと成長している。

しかし、なぜ白洋舍はここまで法人領域で存在感を発揮することができたのだろうか。その問いに対し穐津さんはこのように話す。

「法人領域では、単に“洗う”だけではなく、法人領域ならではの衛生品質や管理体制そのものが求められます。例えば食品工場では異物混入なども許されませんし、ホテル客室で使用するシーツに汚れや傷があれば、宿泊体験に直結し、顧客先のブランド価値にも大きな影響が出てしまいます。

白洋舍では、そうした“失敗できない現場”に対応するため、一点ごとに細かな検品を実施しており、素材や状態に応じて洗浄方法を変えるほか、破損や異物混入を防ぐための確認工程も徹底してきました。

また、食品工場向けにはISO22000基準に対応した工場整備も進めています。さらに、クリーニングについて研究を行う社内の『洗濯科学研究所』の技術を活用し、技術面からも品質向上に大きく貢献しながら、クリーニング品質も厳格に管理しています。そうした管理体制と信頼の積み重ねこそが、多くの顧客先に選ばれ続けている理由であり、法人領域で成長を続けられた要因だと考えています」

現在、白洋舍では著名ホテルで自社が運営するランドリー工場を館内に設置し、宿泊客向けクリーニングサービスを担うほか、ユニフォームレンタル事業では、単に衣類を貸し出すだけでなく、在庫管理やサイズ交換、修理対応まで含めた運営支援を展開。近年では、企業の脱炭素需要を見据え、LCA(ライフサイクルアセスメント)を活用したカーボンフットプリント算定にも取り組むなど、“洗う会社”の枠を超えたサービスへと進化を続けている。

選ばれる理由を作り守り続ける

法人領域を主力事業へと変貌させ、さらにその範囲を広める白洋舍だが、法人領域へ完全に舵を切ったわけではない。2026年に発表した新成長戦略では、「品質・信頼を守りながらもっと便利に」を打ち出し、同社は改めて従来の店舗・クリーニング事業を通じた顧客接点において、「ファンを増やすこと」を重要戦略の一つとして掲げた。その中で、重視されているのが数を減らした従来の店舗の存在だ。

「クリーニング市場が縮小し、法人領域が好調だからといって、店舗自体を完全になくしていこうという考えはありません。理由としては、お客様との重要な接点の場として大きな役割を担っているからです。実際、白洋舍の認知経路について行ったアンケートでも、WEBサイトなどは1割程度だったのに対し、店舗は6割を超えていました。実店舗の利用や日常の中で店舗を目にすることが、認知のきっかけとして圧倒的に大きく寄与していることを認識した結果でした。

たとえ優れたサービスを提供する技術があったとしても、まず知られていなければ選択肢として選ばれにくいのは当然です。それは一般のお客様の利用だけでなく、先ほどお話した法人領域においても同じだと考えています。私たちが一貫して強みとしてきた『品質の良さ』を今後も拡大していくには、日常の中でお客様と接点を持ち続け、“白洋舍=品質が高い”という認知を保ち続けることが重要になります。

その意味でも、店舗は単なるクリーニングの受付拠点ではなく、ブランドを支えるマーケティングチャネルとして大きな役割を担っていると思います」

クリーニングは、一般消費者から見ればサービス内容の違いが見えづらく、仕上がりの差が伝わりにくい業界でもある。だからこそ白洋舍では、単純な価格競争ではなく、“選ばれ続ける理由”そのものをブランドとして積み上げることを重視してきた。

白洋舍のサービス料金は、競合のクリーニングチェーンと比較すると高めに設定されている。その理由としては、依頼された衣類を一点ずつ細かく検品し、傷やシミの有無、生地の状態などを確認した上で、素材や状態に応じて洗浄方法を変えていることがある。さらに、ボタン破損を防ぐための処理なども含め、一つひとつの工程に手間をかけながら仕上げを行っており、クオリティへの徹底した追求が価格設定にも反映された結果だ。

さらに興味深いのは、顧客が感じている品質が、単純な洗浄技術だけではない点だ。2026年に実施した顧客インタビューでは、接客面での評価に言及する声も多かったという。

「お客様は、実は洗浄方法そのものにはそこまで強い関心がないケースも多いんです。むしろそれ以上に、『手触りをよくするには~』や『より服が映える仕上がりにするには~』といったことを提案してもらえる安心感のほうが重要だったりもします。

自分の大切な衣類にちゃんと向き合ってくれているという安心感は、価格の安さや、単純に“汚れが落ちて綺麗になった”というだけで生まれる価値ではありません。そういった目に見えない部分も含めて、“白洋舍なら安心して任せられる”という信頼につながり、結果的にファンになっていただける理由にもなっているのかなと感じています」

120年間受け継がれる白洋舍のイズム

2026年3月、白洋舍は創業から120周年を迎えた。干支が一巡する還暦を二度重ねた大還暦ともいえる節目だ。その前年となる2025年4月には、現社長・五十嵐瑛一の“これからは本来あるべきマーケティング機能が必要だ”という考えから、新たに「マーケティング戦略推進部」が設立された。かくいう穐津さんは、そうした変革のタイミングで外部から同社へジョインした一人だった。

だからこそ、外部から白洋舍という会社を見た時、その独特な“社風”のようなものを強く感じたという。

「白洋舍に入社してまず感じたのは、真摯で相手のためにちゃんと動こうとする人が多いということです。新参者である私に対しても、工場、店舗、営業、集配など部門を問わずみなさんとても親切かつ丁寧に接してくださる。これは今までになかった経験で、とても印象に残っていますね」

この感覚は穐津さんだけのものではない。長く働くパート従業員からも、『白洋舍で働く人は真面目な雰囲気の人が多い』と言われることがあるそうだ。尋ねてみると、そういった意識を共有するためのレクリエーションは特別行っていないという。”お客様の大切なものに真摯に向き合う”という精神は、創業者・五十嵐健治氏の『世のために奉仕できる仕事がしたい』というイズムが、いまも脈々と受け継がれている表れだろう。

「極端な話、今の社員が昔の白洋舍にタイムスリップしても、たぶん普通に馴染めると思うんですよね。それくらい、根っこの価値観はずっと続いてきたんだと思います」と穐津さんは笑って話した。

最後に、穐津さんへ今後の展望について尋ねると、「白洋舍の価値を、改めてお客様へ伝え直していきたい」と話す。

「申し上げてきた通り、白洋舍という名前自体は知っていただいている方が多いんです。ただその一方で、“他のクリーニング店と何が違うのか”という部分は、まだ十分に伝えきれていないとも感じています。サービス内容だけでなく、お店の内装や外観、デジタルも含めた顧客体験など、改善できる余地はまだまだある。120周年という節目をきっかけに、長い歴史の中で積み上げてきた白洋舍の良さを、改めて現代のお客様へ届け直していきたいですね」

白洋舍のロゴは、青色で清潔感や信頼感を表現している。また、社名においては、創業当時は個人事業の小さな店舗であったため、小屋を意味する旧字体の「舍」を残すことによって、創業当時の“奉仕の精神”と老舗としての伝統を象徴している。

白洋舍は時代に合わせた戦略と、120年かけて積み上げてきた品質と信頼を武器に、業界を代表する存在であり続けている。これまで紹介してきた通り、クリーニングは単にビジネスウェアを洗うだけのサービスではない。ホテルのシーツやレストランのテーブルクロス、食品工場のユニフォームなど、普段何気なく接する環境の裏側を支える存在でもあり、私たちの衣食住と密接に関わっている。

リモートワークの定着によって、確かに私たちとクリーニングと距離感は変わった。しかし、それは決して断絶されたわけではなく、見え方や関わり方が変わっただけだ。人の営みが続く限り、これからも白洋舍は日常のすぐそばであり続けていくだろう。


文:土田洋祐
写真:土田洋祐・白洋舍

取材協力:白洋舍
創業:1906年
設立:1920年5月2日
本社:東京都大田区下丸子
代表者:五十嵐瑛一
事業内容:クリーニング事業、レンタル事業、不動産事業など
上場:東証スタンダード(9731)

[参考]
厚生労働省:クリーニング業の実態と経営改善の方策 (平成24年)
e-Stat:年次別クリーニング施設数推移
白洋舍:決算短信


bizSPA!編集部

美味しい料理や、素敵な音楽に出会ったときに生まれる仕事へのモチベーション。
記事を通してそんな気持ちを呼び起こすことを目指しています。

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