「高卒元プロ野球選手」の公認会計士が語る、折れかけた心を支えた“選手2人の存在”
公認会計士に運命的なものを感じた
その頃、古巣の阪神タイガースは仲が良かった同期の井川慶や1期下の藤川球児らの活躍で18年ぶりの優勝を果たし、大阪の街は沸き立っていた。「あいつらと違って、自分は一体何をやっているんだろう」と感じたという。
焦燥感から10円ハゲができるほどやつれ切った。そんな姿を見かねて、後に妻となる交際中の彼女が買ってきてくれたのが「資格ガイド」の本だった。これが人生を大きく変えるきっかけになった。
「さまざまな資格が載っている中で、目に留まったのが公認会計士でした。ちょうど試験制度が改正され、大学での単位が必須ではなくなり、誰でも受験できるようになるタイミングでした。しかも、僕は商業高校で簿記を学んでいました。運命的なものを感じ、全てを懸けてチャレンジすることに決めました」
これまでの調理師から、割のいい肉体労働系のバイトに仕事を切り替え、空いた時間は全て勉強に注ぎ込んだ。やがて集中するために、タイガースの情報がいやでも耳に入ってくる大阪を離れることを決意。
野球と受験勉強の共通点に気づく
東京で資格予備校の社員として働きながら勉強を続けた。そして、13年に合格を果たし、プロ野球出身者で初の公認会計士という前例のない道を自ら切り開いた。9年間にも及ぶ勉強の末の合格。試験に落ち続けて諦めかけたこともあったが、ある気づきがターニングポイントになった。
それは「野球の成長プロセスは、受験勉強と共通している」という発見だった。
「合格という目標に向けて、対策を立て、成績を上げる。野球やビジネスと全く同じだと気づいたんです。プロ野球ではシーズンが終わると、昨季の反省を生かしてキャンプでチーム構成や育成メニューを組み、オープン戦で試しつつ、新たなシーズンを迎えます。
シーズン中も対戦状況に応じて修正して、優勝を目指して戦っていく。これってビジネスにおけるPDCAサイクル(計画、実行、評価、改善の4段階を繰り返して業務を継続的に改善する手法)なんですよ。途中でそれに気づいたことで、停滞していた成績が飛躍的に伸び、ついに合格することができました」