教員はみんな死んだ目…N高「労働問題」泥沼状態の現状とは
情報通信技術「ICT」を活用した教育が特徴で、2016年の開校からわずか5年で日本一の生徒数2万人以上を獲得した学校法人角川ドワンゴ学園が運営する「N高等学校」。インターネット環境さえあれば入学可能な通信制高校で、入学を検討する生徒や保護者のほか、入職を希望する人も多い。しかし世間の評価とは裏腹に、労働問題が露呈。
事実とは異なる悪質な勤務態度をでっち上げられたり、幻聴に悩まされて死を意識したりした講師たちもいるという。N高との団体交渉を続ける労働組合「私学教員ユニオン」所属の元教員を含む3人に話を聞いた。
「教員はみんな死んだ目」N高の問題点
N高の労働問題とは具体的にどのようなものなのだろうか。私学教員ユニオンのA氏はこう語る。
「N高には2020年の4月に入職しましたが、労働環境が酷く、同期の先生たちもたくさんやめていきました。団体交渉でも問題になっているのは、1人で生徒150名の担任をしなければならないことや休憩時間の取得が現実的に難しい状況などです。休みの少ない月が続き、教員はみんな死んだ目をして業務にあたっていました。
卒業の必須条件である対面授業の“スクーリング”は生徒にとって年5日ですが、教員は少ない人数で2万人以上もの生徒に対応しなければなりません。そのため、教員1人あたり約150名の生徒の担任業務とスクーリングを並行して行うと多忙を極めます。ほぼ1年中、繁忙期状態が続き、当月に取得できるという約束だった振替休日も、繁忙期が終わる3月まで取得できませんでした」
中学生の頃から教師になるのが夢だったというB氏は「休憩なしの約12時間勤務が週6日続いたこともあります」と振り返る。
「私の場合は、朝9時から夜19時半ぐらいまでスクーリング関係の業務をこなし、19時半から生徒への電話や生徒のレポート採点をおこなうというのが繁忙期のスケジュールでした。繁忙期には貴重な週1回の休みを1日中、寝て潰すことも多かった」
鳴り続けるSlack通知の幻聴
大学時代からN高への入職を希望していたC氏は、学校との業務連絡や保護者・生徒とのやり取りをおこなうコミュニケーションツール「Slack」の頻繁な通知音を聞いているうちに「幻聴が聞こえ、死をも覚悟した」と、そのときの状況をこう話してくれた。
「40分授業をしているときに来た連絡について休憩時間に処理をし、また授業へ戻るという繰り返しでした。生徒は教員の休みを知らなかったので、休日関係なく通知音が鳴り続けていた感じです」
当初は生徒からの連絡にも嬉しくやりがいを感じていたC氏だが、ある日を境に通知音の幻聴がはじまる。のちにメールで職員の休日を知らせるよう改善されたが、幻聴は続いた。この頃、C氏はふと死を考えることもあったという。
「エアコンの音も通知音に聞こえるなど心身ともに休まらない状況が続き、追い詰められていきました。でも職場では、上司も含め、勤怠表に形だけの『勤務終了』を記して、こっそり勤務を続けるといったことがありました。年度が変わっても受け持つ生徒数が減るわけではないですし、今後も状況は変わらないと思ったので退職しました」