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教員はみんな死んだ目…N高「労働問題」泥沼状態の現状とは

ビジネス

団体交渉の条件に氏名や顔などの情報を要求

 教職を続けたいと願いながらも退職を選ぶしかなったC氏は「あの頃は、近所のスーパーへ行くのもツラく、病院へ行こうという気力もなく、いま考えると危ない状態だったのではないかと思います」と振り返る。また、B氏も下記のように話してくれた。

「私の場合、定時を2時間ほど超える20時が来たら、教員同士で『定時は20時だよね』『20時になったら残業がはじまるね』などと皮肉を交えた冗談を言い合って繁忙期をやり過ごした感じです。冷静な精神状態では、とても乗り切れなかったと思います

 昨年度はコロナの影響でスクーリングのない日はリモートだったこと、そして今年度は新設されたS高にいたことで、どうにか繁忙期を乗り越えられました。でも、生徒数が増える4月からは怖いです。心を殺して淡々と業務をこなす方法もありますが、生徒のためにもやりたくありません」

 3人が加入する私学教員ユニオンは労働環境の改善を求めて昨年2021年3月にN高との団体交渉をスタート。同年5月2日に第1回目の団体交渉で労働条件などについて交渉をはじめ、メディアでも大きく取り上げた。2回目の団体交渉は昨年7月に予定されていたが、N高側が、団体交渉の条件に出席者の氏名や顔、勤務先といった個人情報の開示を求めたため交渉が決裂していた

すり替えられる問題点や悪意を感じる回答

私学教員ユニオン

「150人担任」制をやめるよう求める私学教員ユニオン

 第1回目の団体交渉後におこなわれた記者会見のあと、学校法人角川ドワンゴ学園側はユニオンが指摘する労働環境問題に対し、「毎年、教員の負荷は減っている」などと反論している。そこで、当時の学園側の反論についてどのように受け止めているのか尋ねてみた。

「N高の問題点は、労働基準法が守られていないことだけではなく、『担任1人あたり150人担当はしんどいですよね』と言っても、『担任という概念はなく、メンターなので大丈夫です』と、担任をメンターという言い方に置き換えただけの回答があるという感じで、問題点がすり替えられてしまうことです」(B氏)

「そのメンターという呼び名についても、記者会見のあとに突然、学校側が『メンターにしましょう』という感じでザワつきはじめ、帳尻合わせをしたという感じ。Bさんが言っているのは、ほんの一部です。私は、N高とのやり取りを全部見ていただいて、本当に回答になっていないというのを実感してもらいたいぐらいに思っています」(A氏)

 第1回目の団体交渉のあとに残業代が払われた教員もいるとのことだが、未取得の昼休憩1時間分が累積した賃金については認められておらず、いまだ支払われてはいない。また、学校側が開いた記者会見で角川ドワンゴ学園側は「生徒が増えて急成長したため歪みが出た訳ではない、基本的には法令に従っていた」と主張した。しかし、A氏は首を傾げる。

「労働基準法が守れていないのに、法令の何を守っていたのか? 忙しいから休憩が取れていないのに『休憩を取りなさい』と言われても休憩は取れないですよね。N高側は『私たちは休憩を取るよう指導しました。だから、解決しました』と言うだけで、根本的には改善されていません」

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