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「ココイチ」だけがなぜ全国展開できたのか?カレーチェーンでひとり勝ちの理由

ビジネス

ネックはスパイスの原産地にあった

スパイス

 なぜこうした問題があるかというと、カレーの原材料の生産地は赤道近く・亜熱帯に集中しており、こうした国々は基本的に政情不安の国であり、これまでの取引の歴史とコネクションが重要になるためである。そのため、原材料の安定供給をおこなうためには、ハウス、S&B、GABANといった伝統的なスパイス商社と組まない限りそもそもチェーン展開ができない。

 多くのカレー屋はこれら3つからスパイスを購入した上で、オリジナルなブレンドをおこなっており、スパイスを直接輸入できるところはほとんど皆無といってもよい。

 このように、カレー業界にはカレー粉・スパイスの安定供給確保という経営問題があり、カレー粉・スパイスの安定的取引関係(平たくいえばコネクション)という「資源」へのアクセスが経営上大きなインパクトを持つ。そして、ハウス食品に株を渡し、業務提携と資本提携を早い段階でおこなうことで、この点を他社に先駆けて解決したココイチの店舗だけが急激に増加したのである。こうした説明は、経営学の世界では資源依存理論と呼ばれている。

 さらに、こうした資源依存関係があるからこそ、新規参入や戦略の模倣も難しいのである。たとえ新規参入を決意したとしても、どの商社と提携するか、そもそも相手にしてくれるのか、自社がある程度大きければ相手にしてくれるだろうが、そのために自社株を明け渡す覚悟があるか、そんなことを考えているうちに尻すぼみになるだろう。

 ココイチの「オーソドックスなルーとバラエティ豊かなトッピングの組み合わせ」という戦略はまさしく「言うは易く行うは難し」の典型だということだ。その裏にある要因を理解するには、経営学が有益なのである。

<TEXT/岩尾俊兵>

慶應義塾大学商学部准教授。平成元年佐賀県生まれ、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、東京大学史上初の博士(経営学)を授与され、2021年より現職。第37回組織学会高宮賞著書部門、第22回日本生産管理学会賞理論書部門、第36回組織学会高宮賞論文部門受賞。近刊に『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版) Twitter:@iwaoshumpei

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