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IT革命が「中国のヤクザ社会」に及ぼした影響。男が失うものとは何なのか

暮らし

IT産業の発展で拝金主義が浸透した中国

帰れない二人

――この映画では3つの時代を背景に違う街を舞台にしています。2001年の大同(ダートン)、2006年の三峡(サンキョウ)ダムとウルムチ、そして、2017年には再び大同と、なぜ監督はこれらの時代と場所を選んだのでしょうか?

ジャ監督:2001年に中国はWTOに加盟し、インターネットが普及して新しい時代を迎えました。舞台である地方都市にすぎない大同でさえも、大きな時代変化のうねりに突入していました。大同はもともと石炭が主要産業だったんですが、それがIT産業へと変わり、拝金主義が浸透していきました。

 2006年に公開した『長江哀歌』のシェン・ホンという女性が本作の主人公チャオでもあり(両方とも監督の妻であるチャオ・タオが演じている)、彼女がたどった運命をとおして、2006年の三峡ダム完成が中国人にとってどんな意味があったかを表現したかった。三峡ダムが建設され、街のほとんどが水没していたわけですが、実は当時、私はその街の様子をフィルムに残していたんですね。本作でもそのフッテージを使っています。

 そして、チャオは新たな可能性を求めてウルムチという新たな場所へ向かいますが、なかなかたどり着けません。ウルムチは“たどり着けない場所”の象徴です。おそらく誰にでもそのような、決してたどり着けない場所があると思います。距離の問題だけでなく、新しい人生を送ることは難しい。

競争社会の中で男が失ってしまうもの

帰れない二人

――なるほど。“新しい世界”についていけない、“古い世界”に取り残された人々の象徴なのですね。ということは、チャオが「江湖」を守り抜く“古い世界”、チャオの恋人であるビンが変わりゆく“新しい世界”のメタファーということでしょうか?

ジャン監督:それに、男の映画監督として、男性の弱点も描きたかったんですよね。この変化の速い社会のなかで、男性は“競争に勝ちたい”という本能があると思う。男性は見栄をはりたがり、外へ戦いに出かけてしまう……。その結果、男性のほうが人生で多くのものを失ってしまっているような気がします。

 一方、女性は今自分がいる場所ー家ーに平和を見出し、それを継続するという本能があるのではないでしょうか。女性のほうが強く生きていると思います。

――ピストルもこの映画では重要な役割を果たしています。2人を結ぶ“絆”としても、引き裂く“断絶”としても描かれているような気がしますが。

ジャ監督:ピストルは2人の運命の変化や中国の発展における“ターニングポイント”を指しています。暴力に満ちていますが、それに相反するように情と義もあった矛盾する“古い世界”がお金がすべてという価値観にとって変わった“新しい世界”へと転換する、境界線のシンボルです。

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