戦時中にTwitterがあったら…NHK広島「戦争体験の新しい語り方」とは
現代人と変わらぬ戦時下の人の心情
また、ツイートには現代人と変わらぬ心情や当時の意外な事実も記されている。「赤ちゃんができました!」(5月18日)から始まるやすこのツイートは、妊娠中のつわりの苦しみや気持ちの浮き沈み、歯痛など“マタニティあるある”が満載だ。「旦那様からお父様宛にはお葉書が来たのに、私には何も来ない…どうして!?」(6月20日)など、LINEの返信がなくてすねる現代の女子の気持ちと通じるツイートもある。
シュンのツイートでは、驚くことに戦時中は敵性語と禁止された英語の授業があり、「敵兵と出会った時に話を聞き出すため、今日も英語を勉強する」(5月11日)とつぶやかれている。戦争に勝つと信じて疑わないが、「日本は有利な戦況にあるはずだ。なのに、なぜサツマイモなんかを飛行機の燃料に使おうとしているのだろうか」(6月26日)と素朴な疑問も口にする。
記者の一郎は「今日は呑むぞ。ビール券三枚握りしめ、同僚と会社を飛び出す。堀川町の角にある『キリンビヤホール』では今でも生ビールが呑める。鬱々とした気分を紛らわせよう」(5月4日)、「戦費調達のため、なんと政府が富くじを売り出すそうだ。当たり金額が大きいので夢が膨らむ。もし当選したら、何に使おう」(5月15日)、「ビヤホールだというのに今月はビールがないそうで、酒二合瓶を一本だけ売ってくれる。なんでもいい。飲まなければやっていられない」(6月28日)と、いつの時代も変わらぬサラリーマンの姿を伝えている。
その一方で、何気ないツイートの中には、未来を知る私たちにとって重要な意味を持つものもある。「今日はたった一機だけが飛行機雲を引いていた。何をしに来たのか? 一機でも恐ろしいことが起きるような気がしてならない」(シュン、6月25日)。「昨日、岡山と山口付近で大空襲があった。しかし、廣島が攻撃されなかったのはなぜだ? 不気味で仕方ない」(シュン、6月30日)。この時すでに、アメリカは広島を原爆投下目標に決定していた。
元アナウンサーらチームでツイートを作成
実在の人物の日記が元ネタというだけでなく、ツイートが心に刺さるのには理由がある。それは広島にゆかりのある一般市民が“中の人”として、本人の心情をくみ取り、同じ行動を追体験しながら、手触り感のある言葉に置き換えているからだ。
シュンのツイートは高校生を中心に10代の若者5人、やすこは子育て中の主婦や新婚女性ら3人、一郎は地元タウン情報誌の編集者、元アナウンサーなど3人が担当している。
「シュンが軍人勅諭を暗唱するツイートでは、その気持ちに近づくべく、担当の女子高校生がノート3ページにわたって軍人勅諭を書き写していました。
その他にも、配給の米を運んだくだりでは20キロの米を担いでみたり、防空壕掘りを体験したり、8月6日当日の足取りをたどるなど、体も使って当時に思いをはせようとしています。これらは3グループに劇作家の柳沼昭徳さんに加わってもらい、演劇の手法からその人物になりきるためのアドバイスをいただいたのがきっかけです」(上松CP)