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なぜ日本の若者は幸せに見えないのか?フジテレビ社員が映画で伝えたいこと

 2010年から5年間、南米の小国ウルグアイで大統領を務め、「世界でいちばん貧しい大統領」と呼ばれたホセ・ムヒカ。給料の大半を寄付し、農場で質素に暮らしているムヒカは、2012年に開かれた国連会議で行ったスピーチで「人類にとっての幸せとは何か」を訴えて一躍注目を集めた。

ムヒカ

© 2020「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」製作委員会

 大きな反響は海を越えて日本にまで届き、絵本やさまざまな書籍として出版されている。そんななか、ムヒカの生き方に魅了された1人の日本人が自らの視点で捉えた映画を制作した。

 その作品とは、近日公開予定の『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』。そこで、ドキュメンタリー映画を初めて手掛けた田部井一真監督に話を聞いた。

ムヒカの言葉が日本で誤って届いている

田部井一真

インタビューに答える田部井一真監督

 現在、フジテレビで働いている田部井監督だが、ムヒカとの出会いは2015年。社会人8年目だった当時、担当していたテレビの情報番組がきっかけでウルグアイへと向かい、ムヒカにアポなし取材を敢行した。

「最初の印象は、牧歌的な田舎の優しいおじいちゃん。でも、長年にわたってゲリラ活動をしていたことや12年間も刑務所に収監されていたことを知り、さまざまな経験を乗り越えていまのムヒカになったんだということが徐々にわかったんです」

 取材を重ねていくうちに、現場でしか目の当たりにできない生の情報を得る喜びと同時にムヒカという人物に対する愛着も強くなっていったという。

 その後、ムヒカは2016年に初来日を果たし、日本でも話題となるが、そこで田部井監督のなかに沸き起こったのは、きちんとムヒカの言葉が届けられていないことに対する悔しさ。それこそが映画化へと走り出す原動力となる。

「担当していた情報番組でも、ムヒカが来日した空気感を少しは出せましたが、『貧しい国の大統領が来て、貧しければいいんでしょ』みたいな間違った方向に伝わってしまった部分があったことに終わってから気が付いたんです。『結局、伝えたかったのは何だったんだろう?』ということを突き詰め、ムヒカに対してどう決着をつけようかと考えたときに、映画しかないと思うようになりました」

大統領が語った「人生で一番大事なこと」

ムヒカ

 とはいえ、すでに大統領を退任し、来日ブームも過ぎた人物を映画化するのは容易なことではない。実際、完成するまでの5年間は葛藤の多い時期だったと打ち明ける。

「僕としては、映画をいまの時代に向かって投げ込みたいという気持ちでしたが、周囲からは『なぜいまムヒカの映画をやる必要があるのか?』をすごく問われました。しかも、ムヒカについてはすでに国外で数多くの映像作品がありましたし、世界的に著名な監督も映画化していたほど。書いても、書いても企画書が通らない日々が続きました」

 そのなかで、ひとつの突破口となったのは、日本人という大きな主語で語るのではなく、自分の視点から描くという方向性を決めたことだった。田部井監督は自身の息子に歩世(ホセ)という名前を付けるほどのめり込んでいくが、だからといってすべてにおいてムヒカから影響を受けているわけではないという。

「国内でも賛否あったように、僕も彼が言うことすべてに賛同しているということではありません。いまでも、自分の心境によって響く言葉は違いますが、いまそのなかでも忘れられないものを挙げるとすれば、『人生で一番大事なことは、成功することじゃない。歩むことだ』ですね。失敗してもう一度やり直すという繰り返しだった5年間で、この言葉に支えられてきました」

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