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ローカル私鉄ならではの事情も…110周年、熊本電鉄の現役・引退車両

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戦前に新製された熊本電鉄の長老「モハ71」

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熊本電鉄の長老、モハ71

 1928年に新製された車両で、広浜鉄道から国鉄を経て、1954年に熊本電鉄が譲受した。現在は入換車として、北熊本車庫でのんびり過ごす。

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モハ71の運転台

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モハ71の車内

 創立100周年を迎えた2009年、内外装をレストア。2017年に開催された「第1回くまでん電車・バスふれあい祭り」では、“簡易食堂車”として、オリジナルカレーを販売していた。現在は外観がかなり色あせており、再レストアの予定はないという。

110周年は鉄道の安全強化を最優先

 創業110周年という節目の年は、鉄道事業が正念場を迎え、鉄道の安全強化を急いでいる。

 その契機となったのは、2017年2月22日と2019年1月9日、藤崎線藤崎宮前―黒髪町間で脱線事故が発生したこと。いずれも軌間拡大(レールの間隔が拡大すること)が原因と考えられている。2度の脱線事故を重く見た国土交通省九州運輸局は、2019年4月24日付で改善指示を出した。

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線路脇にPC枕木が用意され、終電後に交換工事が行なわれる

 熊本電鉄は7月18日に安全輸送に対する取り組みとして、菊池線上熊本―堀川間、再春荘前―御代志間、藤崎線全線で、枕木2810本を木製からPC製(PCは「Prestressed Concrete」の略)に交換することを発表した。2019年度末までに完了させる予定だという。

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自動車の荷重に耐え得る脱線防止ガードの試作品だろうか

 このほか、脱線防止ガードの設置、バラストの飛散防止対策などを行なう。また、架線を支える支持工作物も木製が多く、気になったので問い合わせたところ、順次コンクリート製に交換する予定だという。

 中小私鉄のほとんどは、大手の鉄道と異なり潤沢な資金がない。熊本電鉄の踏切は、警報機と遮断機がない第4種があり、両方ある第1種でも乗務員をバックアップする障害物検知装置や特殊信号発光機がない。01形や03形はアルミ車体、6000形はセミステンレス車体なので、仮に自動車などの衝突事故が発生し、わずかに損傷しただけでも「修理不可で廃車」という恐れがある。やっとの思いで手に入れた車両なだけに、最高速度50km/hとはいえ、乗務員の緊張感は計り知れない。

9月14日は「熊本県内 バス・電車無料の日」

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「熊本県内 バス・電車無料の日」を宣伝するポスター

 9月14日は「熊本県内 バス・電車無料の日」と銘打ち、熊本電鉄(鉄道、バスとも)、市電(熊本市交通局の路面電車)、熊本バス、熊本都市バス、九州産交バスの一般路線バス、コミュニティーバスが無料で利用できる(高速バスやリムジンバスなどは対象外)。

 大胆過ぎる企画なので、私は交通機関のパンクを心配するが、バスや鉄道の利便性を検証するいい機会ではないだろうか。社会問題と化した高齢ドライバーの事故をなくす契機になってほしいことを切に願う。

【取材協力:熊本電気鉄道】

<取材・文・撮影/岸田法眼>

レイルウェイ・ライター。「Yahoo! セカンドライフ」の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、ムック『鉄道のテクノロジー』(三栄書房)『鉄道ファン』(交友社)や、ウェブサイト「WEBRONZA」(朝日新聞社)などに執筆。また、好角家の側面を持つ。著書に『波瀾万丈の車両』『東武鉄道大追跡』(アルファベータブックス刊)がある

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