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YouTubeに出現した「ていねいな暮らし」の居心地の悪さ

コラム

カウンターのようであって消費を煽っている!?

白武:居心地が悪いっていうのはなんでですか? 合わないものが組み合わさっているから? でも「inliving」の動画は別に違和感があるわけじゃないですよね。

もて:そう、その違和感のなさがつらいというか。結局、「ていねいな暮らし」とか「オーガニック」って、言うほど大量生産・大量消費のカウンターにはなっていないんですよ。

白武:どういうことですか?

もて:それらは一見、カウンターのように思えるけれど、結局は消費を煽っているわけですよね。あたかも大量生産・大量消費に反対しているようでありながら、雑誌やメディア、広告はそういう考え方を利用して消費をブーストさせているわけです。

白武:シンプルなものなら買っていいとか、オーガニックなものを買うべきだみたいなことですかね。

もて:ある種「免罪符」っぽいものとして機能しているだけというか。あたかも消費社会から距離をとっているふりをしているけれど、実際はむしろそれこそが消費社会の重要な一要素として機能してしまっている。みんな薄々それに気づいてはいたけれど、一応建前としては「そうじゃないですよ」という態度をとっていたわけじゃないですか(笑)。

白武:たしかに「inliving」の動画はシンプルな暮らしを描いていて、消費社会に取り込まれていない感じですよね。でも、ぼくはコスメキッチンでジョバンニのオーガニックシャンプーを買っているし、ニールズヤードのオーガニックアロマを何本も持ってます。「オーガニックブースト」によってバリバリいらないものまで消費してます。

もて:ていねいな暮らし的なものをYouTuberフォーマットに載せることが、そういった文化が消費社会のカウンターではなくその一要素にすぎないことを象徴してしまっているというか。そういうことを考えると見ていてつらくなってしまうんですよ。あのフォーマットがとられていることで、自身が立脚している価値観の空虚さを自ら明らかにしてしまう感じが……。自分が裸であることを裸の王様本人が宣言してしまうというか。

白武:ぼくはオシャレでいいなと思いましたけどね(笑)。

資本主義の終わりを想像するよりも

もて:あの動画を見ていて、ぼくはマーク・フィッシャーの『資本主義リアリズム』という本を思い出したんです。2009年に書かれたこの本は2018年に日本語訳が発売されていて、帯に書かれた「資本主義の終わりより、世界の終わりを想像する方がたやすい」というフレーズは話題になっていました。

白武:それがどう関係しているんですか?

もて:帯のフレーズに象徴されるように、マーク・フィッシャーは、現代の人びとは、資本主義がよくないことを知っていながら、同時にほかのシステムがありえないことを受け入れるしかない状況のなかで生きているだと書いています。それゆえ無気力感に包まれてうつ病になってしまう人びとが少なくないのだ、と。「inliving」って、まさにそういうものなんじゃないかというか……(笑)。

白武:なるほど……。もてさんも生きづらそうですね。

もて:好き好んでそういうふうに考えているわけじゃないんですけどね……でも、そういう意味でぼくは「inliving」が伝えているものは結構大きいのかなと思いましたね。

白武:「inliving」さんは「資本主義とかうるせえな、おしゃれだからええやんけ、こういうのが好きなんじゃ!」と思ってるかもしれません。負けるな「inliving」!(笑)

<構成/もてスリム>

白武ときお(左):1990年生まれ、放送作家。霜降り明星、Aマッソなど「お笑い第七世代」の芸人と親交が深い。コラム執筆なども手掛ける。■Twitter(@TOKIOCOM
もてスリム(右):1989年生まれ、編集者。WEBサイト「トーチ」内で「ホームフル・ドリフティング」を連載。■Twitter(@moteslim

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