外国で突然ツバを吐かれた!予想外の出来事に脳がたどる、驚きのプロセス
意外な出来事に脳はどう反応するか?
これに対して、海外体験が豊富な人の場合は、「この国には独自のジェスチャーがあるのかもしれない」と考えて、「ツバを吐く行為が侮辱である確率は30 %ぐらいだろう」などと、見積もりを大幅に変えるかもしれません。
いずれにせよ重要なのは、人間の頭の中では、似たような計算がつねに行われているという事実です。窓の外が薄暗いから「7割がた雨だろう」と判断したが晴れた。「遅刻をしたら100%怒られる」と思ったが何も言われなかった。勉強不足のせいで「100%落第だ」と観念したのに合格だった。
意外な出来事が起きるたびに私たちの脳は確率を再計算し、確率のデータベースを更新していくのです。
「脳は生まれつきの統計学者だ」
このような機能が人間の脳に備わったのは、進化の過程で人類の生存に役立ったからです。もし確率を推定できなかったら、私たちは過去の情報から異常事態の発生率を計算し、そこから将来の状況を判断できなくなります。
・草むらが激しく揺れるときは、猛獣が潜んでいる蓋然性が高い。
・遠くに狼煙が上がるのは、他の部族の襲撃がある確率が高い。
・長い雨が続く時期には、高熱を発する病の発生率が高い。
私たちの祖先が進化を続けた約600万年前の世界では、過去の体験データをもとに危機の発生率を判断できるかどうかが生死をわけました。脳内に精度の高い確率のデータベースを構築できた者ほど、生存競争を生き残ることができたわけです。
こういったメカニズムを評して、オックスフォード大学の認知科学者クリストファー・サマーフィールドらは「私たちの脳は生まれつき統計学者なのだ」と表現します。いわば人間の脳とは、あなたが体験した出来事をもとに統計分析を行い、やがては「人生の確率分布」を把握しようと挑み続ける推論マシンなのです。
<TEXT/科学ジャーナリスト 鈴木祐>