住民猛反対で「国費30億円パー」になった土地をまとめ上げた、業務スーパー創業者の“驚きの提案力”
掘削マシンの特注と専門学校の設立
発電所のスタートを目前に控え、町おこしエネルギーの事業は順風満帆にも映るが、これまでには何度となく壁にぶつかっている。
「まず、検討していたアメリカの掘削マシンは日本の排ガス規制で輸入できなかったため、ボルボのエンジンに置き換えて排ガス規制を通しました。そして、キャタピラーを付けて自走式に変更。どんな山奥のポイントでもマシンが勝手に上がってアームを立て、すぐに掘削します。
日本の掘削は、ほとんどの場合に櫓(やぐら)を建てる。櫓を立てるには、とびの職人さんも必要ですし、何十トン車という大きなトレーラーで現地に入らなくてはならない。そのためには道も必要。そうなると、櫓を建てるのに1週間以上かかります。しかし特注のマシンは自走式のため、どんな狭い道や悪い道でも入り、調査用の井戸を掘ることができます」
ただ、本番の井戸は特注マシンでは掘ることができないため、ボーリング会社に注文する必要がある。しかし、「人手不足のため2年待ちなどがザラ」だと言う。ボーリング会社の人手不足について、町おこしエネルギーは、「現役世代の若者へ技術継承ができていなかったため」と考え、なんと、2021年6月に学校法人ジオパワー学園を設立。2022年4月には「掘削技術専門学校」を開校している。
「畑違いの事業」に携わることに戸惑いも
現在は町おこしエネルギーに所属し、日々奮起している岡本氏だが、16年間務めた神戸物産から移ったときには戸惑いもあったようだ。
「神戸物産から町おこしエネルギーに移るまでは、食品のことしか知らなかったので、地熱というまったく畑違いの事業に携わることになり、最初はわからないことだらけで戸惑いました。けれど、スピード感を大切にして、我々の行動により、将来の日本を担っていく若い方々が『いい国に生まれてよかった』と思えるよう取り組んでいきたいです」
町おこしエネルギーは今後、「世界で第3位の資源である純国産のエネルギーを使って、将来の日本の電源を守っていきたいというのが第一の希望。併せて、自然に湧き上がる熱水を利用した食料自給率のアップを目指す」と、岡本氏は言う。
「発電所のできる小国町は標高も高く景色のよいところなので、地熱発電の蒸気が吹き上げ、まわりはきれいな緑の放牧場で馬が元気よく走っている景色になると思います。地熱発電所の見学もできますので、自然と観光も盛り上がると思うのです。山の上には現在も熱水を利用して育てているエビがたくさんいるので、エビ釣りもいいですね。釣ったエビでバーベキューをするなど、将来の展望としてはいろいろと考えています」
夢と希望が膨らむ地熱発電。地熱を利用したエネルギーが今後どのように生活に浸透するのか。今後に注目してみる価値がありそうだ。
<取材・文/夏川夏実>