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飲み会はツラいよ――文化系のための会社サバイバル術

コラム

「気が利かない」と言われる人間は、その実、色んなことをぐるぐると考えていて、選択肢が多すぎてパニックになるのだ。

 相手は引き続きビールをグイグイ飲みたいかもしれない、そろそろ別のものが飲みたいかもしれない、もう少し後で尋ねてほしいかもしれない。

 気が利く人間はそれを情況や相手のペースに合わせて自然と察知するのだが、気が利かない族には到底無理。無理なものはあきらめて、足りない情報を自分で付け足すしかない。

飲み会終了後に待ち受けるさらなる壁

お会計

※画像はイメージです

 さて、飲み会が終わった後も飲み会は続いている。お会計である。自分がご馳走になる場合は、翌日の御礼を忘れなければ良い(もちろん忘れた経験が私には何度もあります)。

 問題は自分がサッと会計をすます責務を負っている場合。社内の飲み会ならまだしも、社外の相手との会食の場合、「サッ」と会計をすまさねばならないプレッシャーで会食の間中生きた心地がしない。

 社会人になって間もないころ、Aさんというお世話になった取引先の方と会食をする機会があった。

 立場も年齢も私よりもずっと上の方である。お世話になっている以上、こちらは「ごち」になるわけにはいかなかったが、いかんせん先方は何枚も上手、「日頃の御礼がしたく」と、約束を取り付ける段から私が絶対払うぞアピールをしていたにもかかわらず、会食はAさん指定の店でおこなわれ、個室のテーブルにはAさんの知己の給仕がついて、完全にこちらの「ごち」をガードしている。

 どうするのが正解なのか。しばらく考えたが私一人で答えが出るはずもなかった。

奢らせてくれない先輩にどう「御礼」をするか

 そこで飲み物の追加を頼むため個室を出た際、勇気を出して給仕に尋ねた。「今日のお会計ってどうなってますか」。「Aさんがお支払いになります」と、涼しい顔で給仕は答え、一時は絶対絶命かと思われた。

「これが手練のビジネスマン!」と、私はAさんのスマートさに感じ入りつつ、名刺を取り出し給仕に自己紹介、Aさんに日頃いかにお世話になっているか、どうして今日はご馳走したいのかを数分間の力説。ついに給仕が折れてクレジットカードを受け取ってくださり、Aさんはこちらの騙し討ちに苦笑いしつつご馳走されてくださった。

 給仕がAさんと旧知の間柄であったから出来たダーティーな裏技であったものの、これは成功体験となった。自分から情報を求めにいけば、絶対絶命からの起死回生も可能! あと「うまく言っときますよ」と言ってくれた給仕めっちゃ格好よかった!

 私がAさんのようなスマートさや、「融通の利く店」なんかを手に入れるには、あと何十年もの月日が必要に思われる。

 体育会計仕込みの機敏さは今更身につけることはできない。しかし「尋ねる」ことなら、何とかできる。まずはそこからやっていこう、同胞、と思う。会社員は難しい。されど尋ねる者には、道が開かれるのだ。

<TEXT/小実山モト イラスト/yopsymi @yopsymi

ライター・会社員。1988年生まれ。大学で文学を学び、演劇活動にいそしみ、長いモラトリアムの後アラサー新入社員となる

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