ただの口論のはずが…中東問題を知るための法廷エンターテインメント
事実、本作を手がけたジアド・ドゥエイリ監督が先日プロモーションで来日していた際にお話を聞いたところ、レバノン人でさえもレバノンの歴史を理解するのは難しいと感じるほど、とにかく複雑なんだとか。
例えるなら、ひとつの国のなかに50の国があり、50の歴史があるくらいだといいます。
とはいえ、監督はこの作品でレバノン社会が抱える問題を訴えたかったわけではなく、描きたかったのは、あくまでも身近な出来事。実際、些細なことから配管工の男性と口論になってしまったという監督自身のエピソードがもとになっているそうです。
背景を知らずとも引き込まれる理由とは?
そんな風にどこでも、誰にでも起こりえることを描いているだけに、自分と重ね合わせて観ることができる本作。
もうひとつの見どころでもあるのが緊迫する法廷劇です。二転三転する先の見えない展開は、まさに社会派エンターテインメントとしても楽しめる見事な構成。
それぞれが抱える忌まわしい過去や家族の問題などいくつもの絡まった糸が徐々にほどけていき、感動のラストへと向かっていきます。
まるで世界の縮図でもあるかのようなトニーとヤーセルの姿からは、異なる人間がお互いに尊厳を持ち、赦し合うことの大切さを誰もが考えさせられるはず。それだけに、そんな2人が見せる男同士ならではの不器用なやりとりには思わず胸が熱くなるところです。
心を揺さぶる感動に出会える
中東が抱える独自の問題が背景にはあるものの、劇中で観客の心をとらえるのは、人と人の間に生まれる普遍的な感情と人間ドラマ。
一見敷居の高い映画のように感じてしまう人もいるかもしれませんが、こういった作品をきっかけに、他国の抱える問題に改めて目を向けてみれば、日本人のなかにはない価値観や報道だけでは知ることのできない他国の国民性や文化にも触れることができるものです。
また、9月29日には『運命は踊る』というイスラエルを舞台にした映画も公開を控えていますが、どちらも各国の映画祭でさまざまな賞を受賞するなど、国際的に高い評価をされている作品。
現在の映画界においても注目度の高い中東映画だけに、この機会にチェックしてみては?
<TEXT/志村昌美>
『判決、ふたつの希望』はTOHOシネマズシャンテほか全国公開中
配給:ロングライド