カリスマヘッドハンター式「初対面の相手に心を開いてもらう究極の3つの交渉術」
最初にこうした質問をしてコミュニケーションをはじめる理由は、前提となる知識がなければ、実りある対話になりにくいからです。たとえば、ヘッドハンティングをするときには、転職者のもつ希望条件などのポイントを的確に把握しておかないと、あとになって紹介先の企業とミスマッチを起こしかねません。
自分の無知を素直に受け入れると、相手からたくさんの情報をもらえるようになりますから、その分、仕事の幅を広げていくことができるというメリットもあります。私の場合、意識的に社外の人と会う機会を作ることにしました。地元のお祭りに出たり、スポーツの大会に出たりして、楽しみながら経験や知識を自分の糧にしています。
年齢を重ねるごとに、自分の知識の範囲内で仕事をすることが多くなっていきます。これはつまり、インプットをせずにアウトプットばかりしている状態。しかし、インプットがなければ自分の可能性を広げていくことはできません。自分から積極的に初対面の相手と接する機会を増やすことで、より充実したキャリアを築けると考えています。
コツ2 つねに相手に寄り添い話を聞く
コミュニケーションの基本は、相手と“向き合う”ことです。初対面の相手とは話題にも困るかもしれませんが、相手に対して前のめりになって興味を持てば、自ずとコミュニケーションは生まれてくるはずです。
たとえば、私は会話のきっかけとして名刺をよく使います。たとえばフリーランスで仕事をしているような人であれば、何らかの思いを込めて名刺を作っているはず。そこを掘り起こしていくだけでも、会話がはじまっていくでしょう。会社から支給されている名刺であったとしても、そこから見える会社の文化から、やはり会話をすることはできます。
共通点を探してアイスブレイクすることも効果的です。私の場合、学生の頃にサッカーをやっていましたから、学生時代の部活から会話を弾ませることもありますし、出身地や仕事の内容など、何かしらの共通点を見つけるところからはじめてみると、すぐに打ち解けられます。
次に大切になるのが、相手に寄り添って、話を受け止めることです。私は過去に人材会社のパソナに勤めていましたが、派遣した方に気持ちよく働いてもらいたいと考え、彼女らの不満を受け止めることを意識していました。
出てくる不満は、「勤務内容が聞いていたものと違う」といったものから、「職場の空調が寒すぎる」といったものまで、さまざまでしたが、どんな内容であれ否定から入らず、いったんは話を受け止めていました。そのうえで、対処できるものは派遣先の企業に働きかけるなどした結果、信頼関係を築くことができたと考えています。
コツ3 こちらから口説かず自分を好きになってもらう
ヘッドハンターとして私が心がけていることのひとつに「客観的な立場で相手と接する」というものがあります。たとえば、クライアントが求める人材を見つけ、ヘッドハンティングの依頼されていたとしても、一方的に転職を促すようなことはせず、まずは相手に話してもらって、気持ちを受け止めるように意識しています。
あるときには「転職をしたい」と言ってくる人に対して、あえて職場にとどまるようにお伝えすることも多くあります。もちろん、転職してもらったほうが私の業績にはすぐに結びつくわけですが、転職した後になって「やっぱりこの会社は合いません」として辞められるのは、ヘッドハンターとして一番悲しいことだと考えていたからです。
特に初めて転職を考える人の場合、人間関係などネガティブな理由で転職を考えている人が少なくありません。そうした人は、仮に転職をしても次の会社で同じような問題にぶつかってしまいます。
また、“完璧な”会社を求めているような求職者に対しても、いったんは転職を思いとどまってもらうことにしています。「年収1000万円で、いい人ばかりで、休みも取りやすく、駅から近い……」。こんな理想的な会社を求めても、ないものねだりになってしまいますから、なかなか積極的に転職を勧められません。
特に日本は、相変わらず終身雇用の文化があり、転職回数が増えるとキャリアにとって不利になるケースが少なくありません。ですから、安易に転職を考える人には、あえてシビアな意見を伝えることもありますが、こうした客観的な態度が、やがて信頼関係を育てると信じています。
いったん転職を思いとどまった人でも、いずれ、仕事の経験を重ねるにしたがって、「転職をすべき」タイミングがやってきます。ヘッドハンターのやりがいや価値は、会社に紹介した人に、心から満足して活躍してもらうことです。転職すべきタイミングに私を頼ってもらえるような信頼を築くことが、何より大切だと考えています。
<構成/小林義祟>