正社員なのに手取り12万円…28歳が見た「映画業界のツラすぎる現実」
同僚は全員お金に困っていた
「会社が関わった映画が封切られた時に、打ち上げで先輩たちと飲みに行ったんですが、10歳近く上の先輩が酔った勢いでポロッと年収を漏らしたんです。240万とのことでした。他の人にもお金の話を聞いてみると、借金して服代を工面していたり、親のすねをかじっていたりで、年齢や業界経験相応の生活をできている人はほぼいなかったんです」
家庭を持つことを考えていた角野さんは、大きなショックを受けました。
「社員は未婚の男性が多くて、結婚していても子供がいない人ばかりだったんですが、その理由がわかりました。酔った先輩たちは、いかに映画の仕事が素晴らしいか語っていましたが、以前なら前のめりに聞いていた話なのに、聞けば聞くほど気持ちが冷めていく自分がいました……」
『カメラを止めるな!』のように小規模な予算の作品が大ヒットして、何十億もの収益を上げたという夢がある話も聞きますが……。
「自分が関わったのは小規模な作品ばかりでしたが、そこまでのヒットになる映画なんて数千本に1本、下手したら何万本に1本とかそんなレベルですよ。小規模作品の9割以上は製作費を回収できてないんじゃないですかね? 下手したら宣伝費すら回収できないなんていう映画もザラにありましたし」
映画との適切な関わり方を見つけられた
そうした現実を見て、角野さんの心境に変化がありました。
「とてもこの業界ではやっていけないと思うようになって、映画業界から離れることにしました。大手になればまた状況は違うと思いますが、自分が考えていたよりもビジネス的にずっと厳しい世界でした」
それでも、角野さんは映画界で働いたことを全く後悔していないと言います。
「あのまま挑戦していなかったとしたら、ずっとモヤモヤを抱えたままだったと思うので。今は金融系の仕事についていますが、地元のフィルムコミッションの仕事をボランティアで手伝っているので、映画と完全に縁が切れたわけではないんです」
フィルムコミッションとは、映画などの撮影がスムーズに進行するようサポートする活動を行なっている団体です。
「映画業界に入って現実を知ったからこそ、適切な関わり方を見つけられたので、本当によかったと思っています」と話す横顔は後悔ひとつない晴れやかなものでした。
<取材・文/和泉太郎 イラスト/パウロタスク(@paultaskart)>