コロナ禍で「批判せず団結しよう」と呼びかける前に考えてほしいこと<ダースレイダー>
東京大学中退という異色な経歴を持ちながら、明晰な頭脳を生かしマルチに活躍するラッパー・ダースレイダー(43)。
この連載では現代日本で起きている政治や社会の問題に斬り込む。
前回の記事に引き続き、著名人が呼びかけるなどして賛否両論が起こった「“コロナ禍での政治批判はやめて、一致団結しよう”という言説について」。今回は、政治に声を上げることの重要性を語ってもらった。
日本が苦手な「プロセスの可視化ゲーム」
ダースレイダー:僕、この連載では常にゲームのたとえを使っていますが、やはり社会で生きている以上、何らかのゲーム性はついてきます。でもそれは、選択の自由が保障されているという民主主義的考え。
コロナによって、経済的、社会的ダメージを受け、謎のウィルスを相手にしなきゃいけないという状況はみんな同じ。そういう意味ではみんな同じ方向を向いてるわけです。なので、あとはどんな体制で、どうあたるか、人それぞれがアイディアを出さないといけない。これを“批判”や“非難”と呼ぶのもいいけれど、そこを僕は考えたらいいと思います。
僕は、基本的には「プロセスの可視化ゲーム」をプレイしたいと思っている。どんな判断であれ、誰がどんな選択肢から、どんな根拠をもとに、どんな選択をしたのか明らかにしていくというゲーム。これがあれば、僕はプレイしていいと思っています。実は日本はこのゲームがすごく苦手なんですね。誰がどう決めたのか、すぐにうやむやにしてしまう。
誰が、どういった基準で決めたのか?
ダースレイダー:誰が2021年の7月にオリンピックをやると決めたのか。4月20日、国際オリンピック委員会(IOC)のホームページでは「安倍首相が追加でかかる経費を負担することで同意した」との見解を掲載しました。
すると、橋本聖子五輪担当大臣が「政府としての合意はない」と発表し、次の日、IOCのホームページからその件が削除されたってことがありましたけど、いったい何が行われているんでしょうね。誰が、どの権限をもってして、どうお金を使うか決めたんでしょうか。
あるいは、WHOにお金を出したってニュースが出たけど、これは何だったのか。何のために金を出したのか。WHOのテドロス事務局長は「ありがとうございます」みたいなことは言っていたが、何が変わったのか? どういった選択肢からこのお金を払うことになったのか……?
あるいは、そもそもコロナへの日本独自の対策として、PCR検査の規模を絞り、感染クラスターを封じ込めることを主軸とした「クラスター対策」というものを出していて、諮問(しもん)会議やら対策会議やらやたらと班が出てきて、これは誰がどういった基準でどう決めたのか?とか。
なんで、日本はクラスター対策だけが、世界と違うやり方を取っていたのか。そのときに選択されなかったカードは何なのか。これは明らかになっていない。
あとになって厚生労働省クラスター対策班の押谷仁さん(東北大学大学院医学系研究科)が、2月2日の段階で能力的に日本はクラスター対策以外の選択肢が取れなかったと『NHKスペシャル』で言っていた。それを後で言うのでなく、先に「日本ではこの方法しかできないんです」と話をするべきなんです。