bizSPA!フレッシュ

英語民間試験で批判が殺到したベネッセ。企業体質に不安も

ビジネス

ベネッセHDの決算を読み解いていく

 直近の状況が把握しやすい「(株)ベネッセホールディングス(9783) 2020年3月期 第2四半期決算短信」を利用して確認します。

 まずは、前年度同期比での売上推移を確認します。

ベネッセ

各セグメント販売実績 (株)ベネッセホールディングス(9783) 2020年3月期 第2四半期決算短信より引用

 国内教育事業は前年同期比8.1%の売上増、グローバルこともちゃれんじ事業は同2.7%の売上増となっています。とはいえ、いずれも売上は微増~横ばい状態と判断できます。

 また、ベネッセHD全体の売上のうち、国内教育事業とグローバルこともちゃれんじ事業が過半数を占めていることから、ベネッセHDは引き続き、ベネッセが抱えている事業が主力=教育系の企業と見て良いと考えられます。

 引き続き、セグメント利益推移を確認します。

ベネッセ

セグメントごとの売上高・利益 (株)ベネッセホールディングス(9783) 2020年3月期 第2四半期決算短信より引用

 直近の利益は国内教育事業・グローバルこどもちゃれんじ事業共に黒字となっています。ただし、株主総会の質疑応答で今後の成長において懸念のある質疑応答が行われていたため、その点について触れておきます。

=====
Q.上期は進研ゼミの販売促進費を効率化(削減)したが、下期もそのトレンドは続くのか?削減の方針として、通期の営業利益の期初計画である200億円の達成を意識して行うのか?

A.「会員数成長」から「利益成長」への戦略シフトにより、上期進研ゼミは、8月の「1か月キャンペーン」を意思を持ってやめるなど販売費を削減しました。したがって10月の会員数は減少しましたが、戦略通り収益面ではプラスになりました。(中略)今期は進研ゼミの認知向上や検討段階でのアプローチを可能にする「川上におけるマーケティング活動」に新たに費用を投下する計画です。引き続きコストの効率化は図りつつ、アロケーションを変えることで通期のトータルコストはほぼ変えない予定でおります。
=====

=====
Q.進研ゼミの「会員数成長」から「利益成長」の戦略転換については理解したが、延べ在籍数を見る限り、会員数自体の伸びが鈍化している「縮小均衡」な印象は否めない。競合環境が激化する中、非効率なキャンペーンを削るとさらに会員数が落ち込むとみているが、会員数の落ち込みはいつまで続くのか、来期は増員に向かうのか等方向性をお示しいただきたい

A.意思をもってやめた8月のキャンペーンの影響で10月の在籍数は若干計画を下回りましたが、延べ在籍はトータルすると前半は去年より増えております。来年4月の目標は対前年103パーセントであり、前回決算発表時にご説明させていただいたとおり、3%の在籍成長を目指しつつ利益を出していく方針そのものは全く変わっておりません。

(ともに「2020年3月期 決算説明会 質疑応答要旨」より引用)
=====

 これ、いろいろ具体案が列挙されているのですが、すごく雑に要約すると「何とかやりくりして、引き続き黒字化頑張ります!」ということだと思うんですよね……。コスト削減を頑張ったり、費用配分をやりくりしても、売上や会員数が2倍になったりはしません。

 つまり、主力事業の「進研ゼミ」や「こどもちゃれんじ」では今後の成長のための方策に限りがあるということです。これは、教育業界の市場規模・推移を考慮しても自然な話です。そもそも、日本では一貫して子供の数が減っているのですから、遅かれ早かれこのような状態になるのは時間の問題でした。

「公平」のはずの入試制度を売り物に?

 こうした経営状況を踏まえると、採点業務を受託したことを明かした上で営業行為をした理由の一端が見えてきます。つまり、この行為が「売上増のための打ち手」だったのです。

 11月20日の日経新聞の記事「ベネッセ、採点業務受託をPR 文科相『信頼性に疑念』」にも記載がありますがーー。

=====
資料は同社が2017年に高校を集めて自社サービスなどを紹介する研究会で配布した。同社は大学入試センターに記述式問題の試行調査の採点ノウハウを提供、助言する業務を受託しており、資料には「記述式採点アドバイザリー業務受託」などと記載していた。
=====

 と、高校の担当者向けに共通テストの採点業務を受託した事実を公表しています。これがなぜマズいのかというと、入試制度は「公平」であることが制度上の必須条件だからです。

 まず、ベネッセが高校向けに何を売っているかというと、

・進研模試
・GTEC(※大学入学共通テストで活用される予定だった「民間英語試験」のひとつ)

 あたりが代表例です。

 つまり、「公共事業の受注で安定収入も得つつ、その権威を使って自社の模試も拡販しよう! ついでにGTEC受験者が増えれば、英語民間試験需要によってダブルで儲かる! 超美味しい!」という考えがあったと言えます。

 今までシェアを取れていなかったセグメント(高校向けtoB事業)での単価を上げる行為は、売上増のロジックとしては正しいのですが、入試制度の趣旨を考えると、企業倫理的にはアウトです。正直、社内でこの販促構想があがった段階で誰か止めろよ……と、筆者は思ってしまいました。

 なお、入試制度で「公平」が強く求められるのは、各大学の個別試験でも同様です。各大学の個別試験で炎上した例ですと、2018年に発覚した東京医科大学が女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていた事件が記憶に新しいかと思います。

おすすめ記事