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「思い通りにいかない…」新社会人の悩みに答える芥川賞受賞作4選

コラム

何事も受け入れたほうが苦しまない

――環境適応能力高いですよね。

菊池:何事も受け入れたほうが苦しまない気がしますけどね。いろいろやってみて、ライターができると評価されたからライターもできたし。それ以外のこともやったんですけど、すぐにライティングと企画の仕事しか回ってこなくなりましたね。

――会社の新人についてはどう思っていました? 先輩として接する機会も多かったと思うんですよ。

菊池:正直に言うと、みんな自意識が強いなと思いますね。「自分はこれがやりたい」というのがすごく前に出ている。あるいは、前に出さなきゃいけないと思っている印象です。

――菊池さんは新入社員と違ったんですか?

菊池:実際にやってみないと、快・不快ってわからないと思います。けれど、「これがやりたい」が蓋をしていて、やってみる前にその判断をしようとしている気がするんです。僕はブログとか書いていますし、学生時代からライターの仕事をもらっていたんですけど、それじゃなくても良いとは思っていて。結果が出るのはライターだったというだけ。

同期と仲良くなれない人におすすめ『苦役列車』

苦役列車

西村賢太『苦役列車』 (新潮文庫)

――次のおすすめの本は?

菊池:西村賢太の『苦役列車』。これは一人で生きる強さですね。日雇労働をして、同年代の友達ができるかと思ったらできなかったというのを、青春ものなんですけど、笑える感じで書いた傑作の小説ですね。

 もっと一日単位で生きればいいと思うんですよ。未来とかを考えすぎる前に、その日をどう生きていくかを考えたほうがいい。未来はわからないので、運命を受け入れる。そういう気分のほうが、楽に生きられると思いますよ。将来のことはあんまり考えないほうが。

――菊池さんは将来をあんまり考えていない?

菊池:そうですね。それなりに苦痛なく、快適に生きられたらいいとだけ思っています。将来を考えてもしょうがないんです。何が起こるかわからないから、起こったことにだけ対処して生きていく。これがすり減らない生き方だと思いますね。未来は予見できないのだから、こちらは日々、適応していくしかない。

適応できないなら世の中を“ハック”しよう

スティル・ライフ

池澤夏樹『スティル・ライフ』((中公文庫)

――適応が難しい人はどうしたらいいのでしょうか。

菊池:藤原智美さんの『運転士』ですね。これは運転に適応する人の話です。自分の意識がなくて、電車の意識と一体化して、運転をどうきれいにするかということを考えて生きている人の話。この人は、正確なものが好きで、自分も正確な存在になりたいから、機械になるために意識を集中させていくというトレーニングをしている。そういう話です。

 あとは池澤夏樹の『スティル・ライフ』。今でいうビッグデータを使って株取引をして大儲けする話なんですね。株式投資用の資金は横領で調達しているんですが、これはいわゆる、ハックの話なんです。

 適応できないのなら、世の中をハックして、うまいことすきを突いて生きていくことが、実践的な解決策なんじゃないでしょうか。小さな抜け道はたくさんあるわけだから。ぼくは「StockX」でスニーカーの転売をしようかな。もちろん犯罪はダメですよ。

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