「フランス映画祭2019横浜」の裏側。お祭り騒ぎに見えて実はシビア?
共同製作は「未来の映画作りの大きな可能性に」
ほかにも、フィルム・マーケットではセラーとバイヤーが交流して映画を共同製作する企画も持ち上がる。
世界の映画界でいまや常識になりつつある国際共同製作は、複数の国から投資家を募ることによって資本を増やしながら、同時にリスクが分散されるという利点がある。
さらに、それぞれの国の市場を狙えることから市場の拡大を見込め、お互いの文化や技術を生かした映画作りが可能になるのだ。長年フランス映画祭に携わりながら、東京国祭映画祭のプログラミング・ディレクターを務める矢田部吉彦氏は次のように説明する。
「経済的な利益以外にも、国際共同製作は映像作家のクリエイティビティの向上につながります。一国の投資しか集まらない映画だと、リスクが大きくなってしまい、映画監督はクリエイティビティを十分発揮できないかもしれない。複数の国から投資が入ることで、リスクは分散され、監督はより自由に映画作りができます。とはいえ、共同製作にまで手が出せる配給会社はまだほんの一握りしかいません」
映画祭と併行して開かれるフィルム・マーケットは、配給権をめぐるビジネス以外にも、未来の映画作りに大きな可能性を秘めているのだ。
是枝裕和監督に会いたがったフランス人女優
配給権や映画製作について真剣な議論をするばかりが映画祭の裏側ではない。フランス映画祭の開催中は関係者を対象にしたパーティーが船上で行われているそうだ。
そこでは、自国では普段顔を合わさないフランスの映画人たちが一緒に談笑したり、ダンスを踊ったりと素顔をのぞかせる。映画祭はたったの数日だが、濃縮された密な空間で、フランス映画人たちの絆が一気に深まるという。矢田部氏によると、去年はホテルのバーのテレビの前でフランス映画人たちが集まり、ワールドカップ観戦に興じていたのだとか。
もちろん、日本人とフランス人の間にも友情が育つ。フランス映画祭の広報に関わっているプレイタイムの斉藤陽氏は、こんなエピソードを明かす。
「2018年に『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞にあたるパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督は、以前からフランス映画人たちからも多大な注目を集めました。数年前の映画祭で来日していた仏の人気女優リュディヴィーヌ・サニエは『是枝監督の作品に出演したい』と、自分自身で監督にコンタクトをとろうとしていました」
これがきっかけになったかどうかは不明だが、今年公開予定の是枝監督の新作にカトリーヌ・ドヌーヴ、イーサン・ホーク、ジュリエット・ビノシュらととも彼女も出演している。
ちなみに、昨年のフランス映画祭では是枝監督が、映画『8人の女たち』(2002)でカトリーヌ・ドヌーヴと一緒に仕事をしたフランソワ・オゾン監督に話を聞きに行っていたらしい。