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漫画家・吉田戦車が振り返る。不条理マンガが通用しなくなった理由

コラム

 今から30年前の1989年1月8日に平成という時代は始まりました。その当時の日経平均株価は史上最高値を記録し、バブル景気に浮かれていました。

 しかし経済成長は長く続かず、いくつかの大きな震災、世間を揺るがす大事件が巻き起こるなど悲しい出来事も多い時代でした。

 1月8日放送の『クローズアップ現代+』(NHK)では、平成という時代に寄り添ってきた脚本家の中園ミホさんと、漫画家の吉田戦車さんがこの30年を振り返る特集が放送されました。2人はいったいこの時代をどのように見てきたのでしょうか?

働く女性たちに寄り添う脚本を書いてきた

 1959年生まれの中園ミホさん。彼女が働き始めた90年代は、華やかなバブルの空気に包まれていた一方、セクハラが当たり前のように横行していた時代。彼女自身も悔しい思いをしてきたそうです。

 1994年、未婚のまま1児の母になる人生の転機が訪れました。その経験をもとに『For You』というシングルマザーを主人公とした連続ドラマの脚本を書き上げ、フジテレビで放送されます。

 彼女は番組で回顧します。「当時は、子供がいる女性の就職は厳しく、現在よりも男性優位の社会だった」「怒りもあったけれど、それが世の中なんだって感覚でしたね」

 それから一貫して、その時々の女性を取り巻く社会状況を脚本に落とし込み、日常を生き抜くための勇気を与える作品を送り出してきました。

『やまとなでしこ』(フジテレビ)では新しい女性像を、『ハケンの品格』(日本テレビ)では、当時増えつつあった非正規雇用労働者の実態を取材し、正社員との格差に苦しみながらも懸命に生きる姿を描きました。

 中園さんは現在、AI時代の働き方をテーマにした『ハケンの品格』の続編を構想しています。変わりゆく社会の中で「時流に乗れず取り残された人たちが元気になれる作品を書くことが自分の使命だ」と言います。

不条理ギャグや悪ふざけが通用しなくなった

吉田戦車

吉田戦車『伝染るんです。』(小学館文庫)

 1990年代前半に巻き起こった不条理ギャグ漫画ブームの立役者の一人である吉田戦車さん。

 不条理ギャグが世間にウケた背景には「本来、あってもなくてもいいものを面白がれる余裕が社会にあったから」と自ら分析。そして「その余裕は30年掛けて、失われていった」と回想しています。

 彼の代表作である『伝染るんです。』(小学館)は、平成とともに始まり、1994年に連載が終わります。翌年、オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生。「現実でこんなことされたんじゃ、フィクションの不条理の出番ないよな、みたいな空気が醸成されていった」と。

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