<第11回>異邦人の登場は貨幣世界をどう変えるか。そして、次号ついに最終回…!?――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
(この物語は岩井克人『貨幣論』がもし『トイ・ストーリー』だったら? という仮定のもとに書き進められています)
【第11回】異邦人の登場は貨幣世界をどう変えるか。そして、次号ついに最終回…!?
<登場人物>
リンネル:服の素材に使われる亜麻布のことで、英語で言うとリネン。
ケインズ:イギリスの経済学者。経済の安定には政府の積極的な介入が必要だとした。主著に『雇用・利子および貨幣の一般理論』
上着:新品の1着の上着。
コーヒー:淹れたてのコーヒー。
紙幣:金貨に代わるあたらしいもの。偉い。
異邦人:貨幣共同体を壊すかもしれない人
<前回までのあらすじ>
紙幣の大量発行により、前代未聞の洪水に見舞われた商品世界。その謎を説くために、リンネルはマルクスが掘った「穴」に飛び込み、ジョン・メイナード・ケインズを連れてくる。ケインズは商品世界を正常な状態に戻すための計画を立て始める。そんななか、リンネルは貨幣がなぜ機能しているかを理解し、ある行動に出る。
太陽がまぶしい日に
異邦人「今日、ママンが死んだ……」
異邦人「ぼくは、アルジェの郊外でバスを降りた」
異邦人「太陽がまぶしい……」
ポケットにはピストルが入っていた。だれかが近づいてきたら撃ってやろうと思っていたのだ。そうやって歩いているぼく(異邦人)に、近づいてくるやつがいた。布っきれだった。
リンネル「ねえ、きみ! おいらと一緒に来てよ!」
異邦人「……?」
リンネル「いいから来るんだ!」
異邦人「ムッシュウ、あなたの言っていることは意味がわからない」
リンネル「わからなくて、いいから!」
そうして、ぼくは布っきれに連れられて、旅立つことになった。なぜそうしたのかはわからない。オレンジ色の太陽がまぶしかったから……。
とにかく穴を掘れ、そして埋めろ
安全ヘルメットを被ったケインズが、大勢の商品たちの前に立っていました。
ケインズ「第一部隊、用意はできたか?」
ケインズがそう言うと、聴衆から歓声があがりました。そのなかには上着とコーヒーもいます。
上着「こんなことになるとはな」
コーヒー「だけど、やるしかないよ」
商品たちの手にはスコップが握られています。
ケインズ「『第一部隊』なんて名前じゃ味気ないな。そうだ、『ケインズ・サーカス』と名付けよう」
パチパチとまばらな拍手がおきます。
ケインズ「これからきみたちには穴を掘ってもらう。そして、その中にお金を入れるんだ。それが終わったらまた穴を埋める。その繰り返しだ!」
ケインズが腕を振り上げながら叫ぶと、また大きな歓声があがりました。
上着「いくぞ!」
コーヒー「掘って埋めるぞ!」
商品たちは走り出しました。そして地面にスコップを突き立て、一心不乱に掘り始めます。