【歴史に残るスゴイ商談発生】1000機以上!トンデモな数の航空機を発注したインドのエアラインの本気度とは?
インド勢が史上最大の航空機購入
航空機を売買し、発表される場があるのはご存じでしょうか。実は、それは毎年初夏に欧州で開かれるエアショーの会場で行われます。偶数年はイギリスのファーンボロで、奇数年の今年はパリでのエアショーとなります。コロナ禍明けの航空旅客急増の傾向からエアラインは保管させた航空機を現場に戻すなど、対応に追われ、新規需要も大きいと予測されていました。
大方の予測は見事にあたり、開幕日の6月19日にはインドのLCC「インディゴ」がエアバスA320シリーズ500機の確定発注を行いました。続く20日にはインドで歴史あるタタグループの「エアインディア」がエアバスとボーイングに対し、それぞれ250機、290機(未確定発注行使時の最大数)の発注を行い、エアショー期間中にインド勢だけで1040機になる機材の発注を行ったのです。
インディゴの発注はメーカー1社への発注では史上最大規模であり、エアインディアは1社のエアラインが一度に発注する数で歴史に残る商談となりました。
今回の数字のすごさは、第3位の発注数を記録したサウジアラビアのフライナスの30機という数字との差を見れば明らかです。インド勢の数字がどれだけ突出しているかがわかります。一般的には発注機数が多い場合に、確定数に加えてオプションとなる未確定発注もつけることがあります。それだけに500機もの機数を確定させる購買パワーはトンデモない数字として航空史に記録が残ります。
インドの航空業界の将来
インドでは本当にこれだけの航空機が必要になるのか、同国について調べてみました。国際競争力からデータを見ると、インドの人口は中国を越して世界1位の約14.28億人で、2位は中国の14.25億人。3位はアメリカの3.4億人です。上位2国の多さが際立っています。2位、3位が航空大国になっているわけですから、この人の多さだけを見てもインドで航空機を利用する人の潜在需要は高そうだと言えます。
また、国土面積は328万㎢で、日本の8.7倍ある国です。鉄道や道路網が発達しても、遠距離の都市間を結ぶには、航空機利用は不可欠です。北部のニューデリー、東部のコルカタ、西部のムンバイ、南部のチェンナイとバンガロールと国内だけでも航空機利用は必須に思えます。LCCのインディゴは2006年に創立し、短期間でフラッグキャリアのエアインディアのシェアを超え、インドでナンバーワンのエアラインになったことで、格安であれば乗りたい顧客層があるということになります。
これを念頭に置くと、インドの航空業界の未来は潜在能力が高く有望であると言えるでしょう。
インドの航空輸送力はどうか
それでは、世界の中でインドの航空輸送力はどの程度なのか。英国の航空データサービス会社Ciriumが出す有償旅客キロ(RPK)の2021年データで上位200社エアラインの国別数値で、インドは世界第7位の位置にあります。
その数値は1,116億RPKでした。うち44%のシェアとなる495億RPKを占めるのはインド最大のエアラインとなったLCCのインディゴです。このインディゴの数字は欧州老舗エアラインのルフトハンザドイツ航空に次ぐ世界18位にあり、ANAの輸送力の2倍以上にもなります。
続くエアインディアは238億RPKあり、インドで2位、世界では39位につけています。エアインディアは、1932年創業で歴史あるエアライン。マハラジャの人形をアイコンとして使っていることで有名です。日本には1955年から乗り入れているものの、コロナで経営が安定せず、2022年1月には一旦は経営が離れたタタグループが再度支援する会社として再建することとなりました。それ以降は、一気に経営戦略が強気になっています。
トンデモな数字の機材発注の現場
航空機発注の現場はどのようなものであったか、パリ航空ショー会場でインディゴの記者発表を取材した筆者が様子をお伝えしたいと思います。エアバスは、屋内展示ブースとは別にシャレーと言われる独立した屋外のスペースを借りています。記者会見を行い、航空機見学の為の受付を行う場所です。ここでは、航空機購入予定の招待客などに飲食を振る舞うことも可能です。
大量発注の記者会見との噂を聞きつけた世界中のジャーナリストが集合を始め、会見場の簡易なイスはすぐに埋まりました。前方右手には、エアバスとインディゴのマネージメントの名札のついたテーブルが置かれており、インディゴからはCEOのピーター・エルバーズ氏他2名、エアバスからはCEOのギョーム・フォーリー氏他1名の合計5名のそうそうたるメンバーが座りました。
中央左右にはスクリーンが置かれ、映像が映し出されるようになっており、エアバスの司会で始まりました。インディゴCEOのピーター・エルバーズ氏は次のように述べました。「エアバスA320ファミリー航空機500機を発注したことにより、 現在の保有機300機に加えて過去の発注を含めほぼ 1000 機の航空機の注文が残っています。この先10年にわたって当社は経済成長の波に乗り、インドにおいて移動の自由をもたらすことをお約束します。 インディゴは、インド国内および国際線において優先して利用いただける航空会社であることを誇りに思っています。インディゴの成長はA320ファミリーの機材とともにあり、エアバスとの戦略的パートナーシップに対する信頼と信念を持っています。」
インディゴの保有する機体はエアバスのA320シリーズとエアバスグループATRのターボプロッププロペラ機のみであり、エアバス社へ絶大な信頼を寄せています。最後に航空機モデルを持ったスタッフが揃っての集合写真を撮り記者会見は終わりました。
この商談は、市場価格500億ドル(日本円で7兆円)とも言われており、少なくともその額が動く商談成立の場としては静かな雰囲気でした。インディゴは日本路線をまだ開設していませんが、インド国内では多くの国内線を持っており、皆さんもインドに行くことがあれば、乗る機会も多いことでしょう。
最終的にパリエアショーは航空業界の長い低迷を一掃するほどの大量の航空機発注で幕を閉じました。
<取材・撮影・文/北島幸司>
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