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ネット史上最大の事件を題材にした話題作「Winny」。企画者が語る経営と映画製作の違いとは

ビジネス

「ネット史上最大の事件」を風化させたくなかった

古橋智史氏

古橋氏が映画製作に関わるきっかけになったのは、知人から「映画祭のイベントに企画を出さないか」と言われたことだった。

「私自身、映画は好きでしたが、自分で映画を作った経験はなかったので、企画を出すかどうか最初は迷いました。でも、せっかく知人が誘ってくれたこともあり、とりあえず勢いで企画を出してみようと思ったんです」

2018年にホリエモン万博の中で開催された「CAMPFIRE映画祭」のコンペ大会に古橋氏は参加。

CAMPFIRE創業者の家入一真氏や起業家の堀江貴文氏(ホリエモン)、俳優の山田孝之など、錚々たる審査員の前で、映画企画のプレゼンを行い、見事グランプリに輝いた。

「豪華な審査員の前で90秒のプレゼンができたのは、とても良い経験になりました。結果としてグランプリに輝いたものの、本当に映画化するかどうかは、製作委員会の組成や予算の兼ね合いなどで、その当時はまだ未知数なことが多くて。結局のところ、映画祭の優勝から劇場でWinnyが公開されるまでに5年の歳月を費やしたわけですが、今年の3月に日の目を見たときは、企画者として映画制作に携われたことに対する、大きな達成感を得られました」

Winnyを映画祭のコンペの題材に選んだのは、古橋氏がスタートアップやベンチャー企業の立ち上げやプロダクトの運営などに関わったこともあり、そのようなキャリアとの親和性を見出せるものを探していたからだという。

いろいろと調べていくうちに偶然見つけたのが、Winny開発者の逮捕というニュースだった。

Winny開発者が有罪判決を受けた後の報道がほとんどされていなく、Winnyに関する映像や資料もあまり残っていないことに気づきました。不当逮捕から無罪を勝ち取るまでに、多くの人が巨大な権力と闘った時の思いを、時代とともに風化させたくないと考え、Winnyを題材に選んだんです」

また、映画祭が開催された同時期には、コインチェック事件(仮想通貨取引所が外部からハッキングされ、約580億円分の暗号資産NEM(ネム)が流出した事件)が発生し、その当時の経営者が社会から大きなバッシングを受けたことに感化される部分もあったと古橋氏は話す。

「クリプト(暗号資産)やブロックチェーンなど、新しい技術に挑戦するサービスに対し、『出る杭は打たれる』という考えが日本では強いと感じていて、Winnyもそれに近いと思ったんです。一方、アメリカではP2P技術を用いた音楽配信サービス『Napster(ナップスター)』などは、訴訟を起こされても開発者が逮捕されることはなかった。

しかもNapsterの創業者であるショーン・パーカー氏はのちにSpotifyを共同創設し、さらにはFacebookの初代CEOを務めています。日米の新しいテクノロジーに対する温度差の違いは、まさにWinnyを通して伝えたいことでもありました」

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