【専門家に訊く】Z世代を狂わす「めちゃめちゃ圧がかかる職場」〜いつも自分が正しい“パワハラお子ちゃま上司”への対処法〜
自己愛は資産や地位、ポジションには関係ない
大鶴さんは、上司の心理を指摘する。
「部内で最も権力を握っても、親が社会的地位のある方であろうと、資産家であっても、深層心理としては常に自己価値に対する不安がある。自己愛性パーソナリティ障害になるか否かは、資産や地位、ポジションには関係ありません。この人たちは、自分の価値にもともと自信がない。
男性は自力で現在の生活や地位をつかんだわけではないのだ、と思います。例えば、有名私立大学の付属中学から大学までを卒業したプロセスでも、現在の会社に縁故採用で入社した経緯でも、いずれもが自分の力で獲得した成功ではない。だから、常に不安で、そこを指摘されるのが特に怖い。
実は、この事例の部下が優秀であることを本人はわかっている。わかっているからこそ、おびえる。自分の価値を下げる部下に極端に敏感に反応し、存在価値そのものが葬り去られると感じる。
部下を認め、称えることはまずできない。優秀な部下ならば、なおさら。そんなことは、彼からすると死にたくなるほどにツライ。むしろ常に中心で、いちばん上で、賞賛を受け、注目を浴びていないと納得できない。自分の価値が下がり、生きていけなくなる、と勘違いをしているのです。
こういう上司は周りに自分を持ち上げる部下だけを集める。意見を言わない、おとなしく、羊のようなタイプを並べる。ライオンのように攻撃をしてくるタイプは、とても苦手なのです」
部下に「恨みの置き換え」?
大鶴さんは「男性の心理のベースになっているのは、親との関係があるのではないか」とも指摘する。
「本当に優秀ならば、部下を潰しません。それでも潰すのは、”お前たちは俺以下でいろ!俺の存在価値を脅かすな”と思っているからでしょう。おそらく、親からそのようにされてきたのだと思います。
例えば父親が俺を超えるな、といった姿勢で男性に接してきた可能性があります。子どもの時に親から欲しかった愛情をもらえなかった。男性は、今も深層心理としてその恨みをもっているように感じます。ここで、いわゆる恨み(怒り)の置き換えをするのです。
他界した父親には、恨みを晴らすことができない。そこで、立場の弱い部下にやる。私が受けてきた相談事例で言えば、自己愛性パーソナリティ障害の人は子どもの頃に親にやられたことを自分の子どもやパートナーにする傾向が特に顕著です」
取材を終えて
大鶴さんの話で、強烈に印象に残ったくだりを以下に紹介したい。実は、私もこういう上司に仕えたことがあり、怖くなってきた。
「私が相談を受けてきた範囲で言えば、名門ファミリーはある意味で親子の利害が一致しています。親はメンツや見栄で、子どもをコントロールする。成績を上げれば、褒美をあげる。子どもは、それで欲しいものを手にする。事例の男性は、その繰り返しで成功体験を積んできたのでしょう。
だから、成人後も周囲を思い通りに動かそうとする。周りの人は、かつて親がしてきたように自分にご機嫌をとり、すべてを与えてくれると思い込んでいる。それが少しでも上手くいかないと、つまり、自分がコントロールできない場面や状況に出くわすと耐えられない。パニックを起こす。
部下は、こういう上司を幼児退行した”お子ちゃま”と見ると、ストレスが多少なりとも減るのではないでしょうか。よりよく見せることに全力で、中身は空っぽ。だからこそ、外を磨くことに熱心なんだな、と見ていればいいのです」
さて、あなたの上司は?
<取材・文/吉田典史 監修/大鶴和江>
=====
大鶴和江(おおつる かずえ)・心理セラピスト、人間関係・社会心理問題研究家
大阪市生まれ。さまざまな心理学や心理療法を学び、心理セラピストとして2005 年に開業。うつやパニック、トラウマ、自己愛性パーソナリティ障害、発達障害などから仕事や人間関係、子育て、恋愛、結婚問題にいたるまで、個人や企業、団体、公的機関から相談を受け、心の悩みや心理的問題解決に関わる。
全国で個人セッションやグループセッション、オープンセッション、心理セラピスト養成活動、講演活動を開催。株式会社ユアエクセレンス 代表取締役。
YouTubeチャンネルで「カズ姐さんの深くて面白い心理学」を開設。著書に「自分を縛る“禁止令”を解く方法 見えない「利得」に気づくと、すべての問題は解決する」 (大和出版)、「怖れを手ばなすと、あらゆる悩みから自由になる」(大和書房)など。
あわせて読みたい
>>「3年間は我慢して働け」は古い考え方か?すぐに転職すべき会社の特徴