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マカロンブーム火付け役として25年。「ピエール・エルメ」トップに聞く、コロナ危機の奮闘

ビジネス

慣れないデリバリーに忙殺されることも

PH PARIS JAPON

コロナ禍で実施したデリバリーサービス「おうちエルメ」

 しかし、2020年からのコロナ禍において、2か月間は全店舗の閉店を余儀なくされ、苦労を強いられたとのこと。

「どうしようか悩んでいましたが、お客様の心が少しでも豊かになり、喜んでもらえることをしようと、生ケーキをお客様の元へ直接お届けするデリバリーサービス『おうちエルメ』を始めました。フランスの自動車メーカー『シトロエン』に協力いただき、1台の車にパティシエとスタッフの2名を配置し、事前オーダー制のデリバリーを東京都の一部地域で実施しました」

 Uber Eatsやmenuなどのフードデリバリーは使わず、すべて内製で運用したこともあって、収拾がつかないときもあったそうだ。

私たちは物流の会社ではないので、効率的な配送ルートを決めるのも、お客様の希望時間に合わせてお届けするのも非常に大変でした。それでも、お客様からは人間の温かみやポジティブな気持ちをもらうことができたと感じています。こうした取り組みを行ってからは、ホテルとの取引も増えていき、ピエール・エルメ・パリがお菓子や空間のコンセプトづくりからプロデュースする案件も多くなりました」

日本の素晴らしい文化をもっと伝えたい

PH PARIS JAPON

 コロナ禍はもとより、円安による物価上昇や不安定な世界情勢など、世間を取り巻く状況は刻一刻と変化している。リシャール氏は今後の展望について「もっとお客様のライフスタイルに欠かせないブランドにしていきたい」と話す。

「スイーツを販売するだけではなく、ライフスタイル領域まで事業を広げていければと考えています。例えば私自身、いろんな地方を巡っては、現地の生産者の方や地元の方とお会いしていますが、都心よりも面白いことをやっていると心から思うのです。外国出身の視点から見ると、日本にはまだまだ知られていない素晴らしい文化や歴史、技術などがあると感じています。食のみならず人の教育や技術の継承、環境に配慮した社会貢献など、あらゆる角度からアプローチできるようなビジネスを展開していきたい」

 芸術性のある至高のスイーツを作り続けてきたピエール・エルメ・パリ。その味わいはもちろんのこと、ファッションのようにコレクションを展開するなど、業界の垣根を超えた独創的な取り組みこそが、唯一無二のブランドとして成長してきた所以なのではないだろうか。

<取材・文・撮影/古田島大介>

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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