スシロー「1皿100円」終了へ。38年間値上げせずにすんだワケ
レーンに流す商品を柔軟に変え、利益を獲得する
他の業種でも実施しているところはあります。マクドナルドなどハンバーガーチェーンのセットメニューがそうです。原価が安いポテトやドリンクを、原価が高いハンバーガーとセット販売し、利益を保っています。しかし、ハンバーガーチェーンのセットメニューは固定的です。一方、回転寿司の「商品ミックス」は変動的です。食材仕入れの価格変化に合わせ、レーンに流す商品を柔軟に変えることができる。より、利益を獲得しやすいのです。
もちろん、回転寿司でも、個別に寿司をオーダーすることはできます。レーンに流すのをやめた回転寿司店(フルオーダー型店舗)もあります。しかし、スシローはそれを否定し、「レーン」と「商品ミックス」という強みをフル活用します。
スシローは、2022年5月の決算説明会で、原価について問われ、「価格が上昇する食材を使うメニュー数を減らすなど、商品ミックスの組み替えにより、価格上昇を吸収する余地は、まだ残っている」(2022年9月期 第2四半期 決算説明資料 FAQ)というように回答しています。柔軟に、商品ミックスを変動できる。これがスシローの強みです。
利益構造の違いが、異なる値上げ対応の要因
ここから、競合である、くら寿司と比較します。くら寿司もスシローに追随し、値上げするのでしょうか? いまのところ、その可能性は低い、と考えます。なぜか? 理由はふたつ。
ひとつは「くら寿司のほうが利益面で余裕があるから」です。回転寿司の費用は、寿司のネタなどの食材費=「変動費」と、人件費や家賃・光熱費などの食材費以外=「固定費」、の2つに分けられます。
くら寿司は、変動費に余裕があります。くら寿司の変動費が売上に占める割合は約45%。スシローは約48%(※2)。100円の皿をひとつ売ったとき、くら寿司の儲けは約55円、スシローは約52円。くら寿司は、スシローに比べ利益率(限界利益 ※3)が高く、食材値上がりを吸収できる。スシローほど、値上げの緊急度は高くないのです。
※2 変動費(率)…変動費率・固定費率とも、過去5年の財務諸表平均値。100円の皿:全体としての変動費率と儲け。実際は各商品ごとに異なる。
※3…売上から食材など変動費を引いた利益=限界利益で比較。回転寿司など飲食店の多くは、売上原価=変動費であり、限界利益=粗利益(売上総利益)となる。