日本の「地方テレビ局」が消える?在京キー局とも異なる問題点とは何か
近年、「YouTubeなどのネットメディアに押されている」とよく耳にするテレビメディアですが、特にキー局の大半は日進月歩で進化しており、今日も多彩なコンテンツを提供し続けてくれています。
他方、テレビメディアの中には「ローカル局」という各地ならではの局が存在します。地元を応援するようなコンテンツを多く展開し、地元では愛され続けるローカル局ですが、この変遷と概念を整理し、そのあり方、素晴らしさ、課題をまとめた本が刊行されました。『日本ローカル放送史「放送のローカリティ」の理念と現実』(樋口喜昭・著/青弓社刊)というものです。
テレビメディアに従事している人でないとやや理解が難しい内容である一方、前述のようにこれまであまりフォーカス・研究されなかった「ローカル放送」に迫ったものとして専門分野を飛び越え広く注目を浴びる一冊でもあります。今回は本書の著者・樋口喜昭さんに、日本のローカル放送史をわかりやすく解説してもらい、その特徴や課題について話を聞いてみることにしました。
上流はキー局、下流はローカル放送局?
――一般的に見ると、随分ニッチとも思える「ローカル放送」の歴史を本にまとめることになった経緯から教えてください。
樋口喜昭(以下、樋口):私はもともと大学を卒業後、NHKに放送技術者として入局しました。その後、フリーになって仙台のローカル局の番組に関わっていたのですが、NHKとはまた違う、とても有意義な時間を過ごさせてもらいました。
時代は90年代後半で、北海道テレビ制作のバラエティ番組『水曜どうでしょう』が全国的な人気を得たりする一方で、さらに自由なコンテンツを提供するCS放送が盛り上がりつつある時代でもありました。また、インターネットもまだ完全な浸透には至っておらず、言わば今ほど整理されていない時代に、ローカル局で経験を積ませていただいたというわけです。
しかし、やはりあくまでもローカル局はローカル局で、その地方ならではの問題も抱えていました。例えば、東京のキー局からの番組をローカル局で放送することがあるのですが、特にスポーツ中継なんかでは、あくまでも「借り物」のコンテンツなので、「一部の地方の皆さんはここでお別れになります」として、良いところなのにいきなりプツっと違う番組になったりするわけです(笑)。
そういう問題などもあり、ローカル局はどうしても下流にいる感じがありました。上流はあくまでも東京のキー局で、ローカル局は下流。それに対して、私は長年複雑な気持ちを持っており、日本のローカル放送史を博士論文としてまとめ、今回のように一冊の本にして上梓させていただいたというわけです。
キー局からの番組と一緒に広告料がついてくる
――YouTubeなどのネットの動画配信が盛んになり、テレビメディアは大打撃を食らっているという話をよく耳にします。特にローカル放送局はその打撃も大変な事態になっているんじゃないかと思います。
樋口:しかし、今のところ海外のようにローカル局がどんどん潰れるといった事態にはなっていません。なぜかと言うとまずは資本面です。確かにローカル局は地元の一企業なんですが、地元の有力企業、キー局や全国紙の資本が多く投入されており、それら企業間の結びつきによって成り立っているからです。
また、テレビの広告(テレビCMなど)も、ローカル局が単独でスポンサーを集めているわけではないことも挙げられます。「全国番組」というものは、キー局からローカル放送局に送られてくるのですが、こういった場合、大企業からの広告収入の一部をローカル局が受け取ることができる仕組みになっています。ローカル局からすれば番組をもらえるだけでなく、お金まで一緒についてくるというわけです。