コロナ貧困を黙殺する社会の闇。“普通の青年”DaiGo氏を変えたもの<森達也×藤田和恵対談>
報道されなければ“存在しない”ことになるのか? 日々の感染者報道の陰で、忍び寄る「経済による死」。黙殺されるコロナ禍の闇を、気鋭のジャーナリストと映像作家が語り合った。
オリンピック・総裁選――時機に応じて、注目度の高いトピックがメディアを席巻する一方、コロナ禍当初は活発だった「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」という議論は、今ではほとんど目にしない。だが、「経済による死」のリスクは、ますます高まっているという。
なぜ“コロナ貧困”は黙殺されるのか? ルポルタージュ『ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う』を上梓したジャーナリストの藤田和恵氏(@RM2cRkuYhmNMz1B)と、『A』『i-新聞記者ドキュメント-』など独自の視点を持つ映画監督の森達也氏(@MoriTatsuyaInfo)が、日本に巣くう病理に切り込む。
仕事も住まいもあった人たちが突然どん底に
藤田和恵(以下、藤田):私は2020年からコロナ禍の生活困窮者支援を行う「新型コロナ災害緊急アクション」の同行取材を続けています。貧困の取材は以前から長く続けていますが、今回はまったく状況が違う。
中高年はもちろん、最近は20代、30代の若者や女性、外国籍の相談者も増えています。特徴的なのは、ホームレス状態なのに服装はこざっぱりしていて、そうは見えない人が多いこと。つまり、最近まで仕事も住まいもあった人たちが突然、どん底に突き落とされており、他人事ではない不気味さを感じます。
森達也(以下、森):貧困問題にはそれなりに関心を持っていたけれど、藤田さんのルポで知らないことがたくさんあると気づきました。菅政権は発足時に「自助・共助・公助」を掲げたけれど、生活保護を申請しても、悪質な施設(無料低額宿泊所)に放り込まれ、それを行政が黙認するなど、公助が機能していない。
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<菅政権のコロナ禍での発言>
「私が目指す社会像。それは自助、共助、公助、そして『絆』であります」
――’20年9月14日、自民党総裁に選出された際の決意表明として。
「政府には最終的には生活保護という仕組み」
――’21年1月27日、参院予算委員会でコロナ禍での生活困窮者への対応を求められて。
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「当時のDaiGoは、普通の青年でした」
藤田:行政の最前線に立つ職員も非正規だったり、何か月もまともな休みもなく、疲弊しきっています。溢れる前のコップの水のように、「経済による死」のリスクは1年前より格段に高まっているのに、なぜか黙殺されています。
森:この国特有の隔離と排除、そして目をそらすことの背景には、集団化への強い欲求と古来から伝わる“穢れ”意識の影響が、二重らせんのように機能していると思っています。ホームレスや犯罪者など異分子を排除することで、社会の同質性を高めようとする圧力がある。社会から疎外し、視界から消すことで、平穏を保とうとする。
日本では、ハンセン病の治療法が確立されても21世紀直前まで隔離され続けた。福島第一原発の事故直後やコロナ禍の初期にも、同じような差別と隔離が社会問題になった。これは土着的な文化でもあるので、排除する側に加害者意識はなく、多くは善良な人々であったりする。
ホームレスへの差別発言で問題になったDaiGoを7〜8年前に取材しましたが、当時の彼は、普通の青年でした。